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THE GUILTY/ギルティのStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

THE GUILTY/ギルティ(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

のっけからオリジナルとの違いが。

オリジナルは青を基調とした冷え冷えとした緊急通報指令室。リメイクは山火事の起こるロサンゼルスで、赤い炎に包まれる山が絶えず通報室に中継されている。アスガーは壮健な青年だったが、ジョー・ベイラーは喘息持ち。目の下に隈もあり、明らかに病んでいる印象。

絶えず外のニュースが中継されており、外界が見えるのが違い。ベイラーはスマホに娘の写真を入れている。アスガーについては妻にしか言及されなかったはず。主人公に娘がいるということは、エミリー(オリジナルではイーベル)のやったことの衝撃度が違うはず。少々あからさますぎる改変である。

アスガーは通報室勤務としての分を弁え現場に指示などしなかったはずだが、ベイラーはそうした上に思い通りにならないと怒鳴る。「アメリカ映画のアルファメイル(万能感を持つ強者男性)の描き方だなあ」と思う。"I'm an asshole"と言ってたので、自分が嫌な奴だという自覚はあるようだ。

オリジナルでは交通警察に指示を出す中継の警察官がおり、女性の声だったが、リメイクでは緊迫感を出すためか現場のパトカーにベイラーが直接指示を出している。そればかりか、描写力に自信がないためか白いバンを止めるパトカーの映像までご丁寧に見せる。

役名は殺される長男オリバーだけ同じ。ベイラーは自分のせいでアビー(エミリーとヘンリーの長女、オリジナルではマチルダ)がオリバーの寝室に入ったのに(「弟と一緒にいろ。起きないさ」)、ヘンリー(オリジナルではミゲル)を責める際にアビーが自分で入ったことにした。責任を負えない、あるいは無意識に責任を避けてしまう人間であることを示している。

前述したがベイラーは喘息持ちで、オリジナルでは健康で自信家の刑事が通信課に回された不遇感があったが、リメイクでは通話中に咳き込むことから病み/闇感が増している。

電話の向こう側の俳優たちは声の演技力が高い。ベイリーの上司ビルはイーサン・ホーク、エミリーはライリー・キーオ、娼婦に襲われる男はポール・ダノ、エミリーの夫ヘンリーはピーター・サースガード、相棒リックはイーライ・ゴーリーが演じている。

「オリバーのお腹にヘビがいる」と聞いたときのジェイク・ギレンホールの無の表情も凄い。

「彼女は何をしたか分かってない。オリバーを救ったと思っている」という分かりやすい台詞や、エミリーを見失ったことで部屋の物に当たる様子はオリジナルにあっただろうか。分かりやすいアメリカ的改変のように思った。

最後にベイリーはエミリーが陸橋の上にいるのは自分のせいだと認める。説得の過程で「俺の親父は…」と言いかけるのはオリジナルにはなかったと思う。またオリジナルでは同僚のいない別室ではなく彼らのいる通信室でエミリーの説得を試み、自らの罪を取り返しがつかないほど周知の事実としていた。罪の告白の場が改変されたことにより、有罪判決を選ぶことは主人公の意志によるもの、という印象はリメイクの方がオリジナルよりも強くなる。

そして最後の展開が最も大きな改変だろう。オリバーが瀕死の重傷を負いながらも生き、女性の同僚が「失意の人は同類を救う」と解説してくれ、「何年も娘に会えなくなるぞ」と相棒のリックが言い、主人公が服役するであろうことを明らかにし、最後の電話の相手がロサンゼルス・タイムズの記者であることを示し、ベイラーの有罪判決の報道で終わる。執拗に視聴者が主人公の選択の意味を理解することを迫る演出がくどい。

全体的に親切な説明台詞の多いリメイクとなっていた。また、救いがあるハッピーエンドへの改変もアメリカらしい。

デンマークの主演俳優ヤコブ・セーダーグレンの目線だけで感情を表現するような抑制の効いた演技を観たあとだからか、ジェイク・ギレンホールが感情表現過多のオーバーアクトに見えてしまった。
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