あなぐらむ

赤いハンカチのあなぐらむのレビュー・感想・評価

赤いハンカチ(1964年製作の映画)
4.3
横浜のホテル・ニューグランドで企画させてもらった上映会でも鑑賞。
ホテル・ニューグランドは本作の重要な舞台であり、旧館入口のエレベーター前の大階段や埠頭を見下ろす大広間は今もそのまま。

テイチク・レコードの30周年記念作品として、石原裕次郎の「赤いハンカチ」がリリースされたのが1962年。
この曲がヒットして、そこから企画が立ち上がり1964年に本作となるのだが、この時期の日活作品の水準として単なる歌謡映画で終わる訳もなく、大変重厚な人間ドラマとして仕上がっている。
劇中でもこの曲は何度も流れ裕次郎自身も北海道シークエンスではギターを爪弾き、歌声を聞かせてくれる。
劇中に"赤いハンカチ"は出て来ないのだが、その歌の語る所はしっかりと物語にしみ渡っている。
ベースとなるのは「第三の男」で、ある事件を機に登場人物の人生ががらりと変わっていく。その様自体は「銀座の恋の物語」の男女逆転版みたいなテイストもあるのだが、これは舛田利雄が師匠である蔵原作品を意識した所もあるだろう。
「銀恋」ではどこかまだ幼さの残っていた青春前記のルリ子と裕次郎も、ここでは苦い過去と現実から目を背け、しかしそれに抗おうとする、より大人に近い人生を演じている。喪ってしまって取り戻せない「青春」の残光が、凍てつく北海道と、港町・横浜の風景に刻印されていく。
本作の浅丘ルリ子は特に素晴らしく、裕次郎と組んだ中でもトップクラスの美しさを堪能できるだろう。町工場で働く少女から富豪婦人へ、女は変貌する。これはとびきりビターな若者たちの成長譚でもある。

裕次郎の敵役にして、ドラマのキーマンとなるのは毎度おなじみの二谷英明だが、今回のプロットはちょっと可哀想な役。
脇では金子信雄扮する刑事がいい味。この人が物語全体をけん引する役割である。笹森礼子と川地民夫は顔見せ的な出演。

舛田利雄の真面目なカチッカチッとした演出に、どうしてチターみたいな響きの劇伴も良く合い、まさ「ムードアクション」の定型とはこれぞ、という仕上り。後半に大きな意味を持ってくる警察署内はセットだが、これも見応えあり。
あまり刑事ものはやっていない裕次郎にとって、これはこのジャンルの代表作でもあろう。ハードボイルドであり青春映画でもある、日活作品鑑賞の一作目にもってこいの、This is 日活、作品である。