りょう

デスパレート・ランのりょうのレビュー・感想・評価

デスパレート・ラン(2021年製作の映画)
3.6
 先日も能登半島地震が発生したばかりですが、遠隔地で家族などの安否を確認できないときの焦りはハンパじゃありません。まだスマホじゃなかったころに東日本大震災で経験しました。
 いろんなところに電話をかけまくったり、まったく面識のない業者などに頼みごとをしたり、極めつけは職権乱用で納税者の個人情報を不正に…、パニックになっているエイミーの心理状態がよく理解できました。映画の設定なので都合よすぎる印象もありますが、そんな彼女の行動も最終的には意味のあるものになっています。
 その一部始終の表現がエイミーの視点でしか描かれません。若干のフラッシュバックも彼女の記憶の映像しかありません。ずっとエイミーの境遇を同時体験することになり、犯行現場がどうなっているのか、わずかなニュース映像がチラつく程度でしかわかりません。そんな演出はデンマークの「THE GUILTY/ギルティ」に似ていますが、主人公の立場がほぼ真逆です。
 フィリップ・ノイス監督は、これまでハリウッドで人気俳優を主演にしたアクションやスリラーを演出してきたので、もっとサスペンスの要素を強調した作品にもできたのかもしれませんが、堅調な映像にとどめたことは正解だったと思います。銃社会の弊害として、学校の襲撃事件を舞台にした作品は、これまでいくつもありますが、エンタメに昇華してしまうにはあまりにセンシティブなテーマです。
 84分の短尺ですが、これだけの映像の要素で物語を構築し、エモーショナルな結末につなげたことを思えば、なかなかの佳作でした。エンドロールのメッセージは蛇足でしたが…。
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