れおん

なぎさのれおんのレビュー・感想・評価

なぎさ(2021年製作の映画)
4.2
「あそこに幽霊も、何もいないんですか。」「きみが幽霊だよ。」
偶然訪れた心霊スポットのトンネルで、兄は死んだ妹を見る。絶望の淵で共に育った妹を後に、逃げ出すように故郷を去った兄・文直。妹のなぎさは、そのトンネルで事故死をしていた。兄は妹を探し彷徨う。繰り返される白昼夢の中、文直は彷徨うことしかできなかった...

希望の光など一寸も差し込まない。赤く、また青く、夏のどんよりとした熱さのような淀みない空気が映像を覆う。

古川原壮志監督・脚本。『スパゲティコード・ラブ』の青木柚と『渇水』で見事な長女役を演じた山崎七海。

「映画」に何を求めるのか。
数々のCMや短編作品を制作する監督が、自身の抱える「社会」に対する疑問を「映画」にぶつけてきた。「この映画のアイデアは学生時代、二十年ほど前に生まれました」と、監督は述べる。「新しい映画」を追い求めていた学生が、映像を作り続け、その先に当時の想いを「映画」へと形作る。

古川監督の"人間"が憑依したようなこの映像は、心を蝕むように生き生きしており、不思議な「映画」体験を味わった。もっとも、青木柚と山崎七海が生きる幾ばくかの"隙間"が至極、そのときがまさに白昼夢のようで、本当に美しかった。

光が差し込まない「映画」もたまにはいい。自分の表現のすべてを映像と音にぶつけ、観客を突き放すような「映画」もまたいい。生温い何の感情を沸き起こらないような「映画」をただ見つめる時間より、よっぽどいい。
れおん

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