みきお

オッペンハイマーのみきおのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0
映画『オッペンハイマー』は、第二次世界大戦中にアメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」に参加したJ・ロバート・オッペンハイマーの物語です。
彼は優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功しますが、その原爆が実戦で使用された際、彼はその惨状に深い苦悩を抱くようになります。冷戦や赤狩りといった激動の時代の波に巻き込まれながらも、彼は内面での葛藤に苦しめられる姿が描かれます。

見終わった感想としては、色々な意見、議論が必要な映画だと感じました。
大迫力のスクリーンで語られる、原爆の父、オッペンハイマーの栄光と没落。
核そのものへの批判と、今後開始される武力競争。 今の現代に向けての悲痛なメッセージが観客に投げかけられます。
受け取り方は沢山あるとは思いますが、人それぞれが自分なりの意見、アンサーが大切になってくる
映画としてのクオリティ、俳優陣の演技というのはものすごくレベルが高く、基本的会話劇なのにも関わらず、ずっとのめり込んで見れました。
単純におもしろい、おもしろくないで片付けられないくらい、深いメッセージ性が込められており、今の現代を生きる私たちへ、問いかけをする
そんな作品でした。
では、どのような部分に強いメッセージ性が込められているのか、自分はどう受け止めたのか
大々的に分けて話していきたいと思います。

演技については、キリアンマーフィを始め、ロバートダウニーJrや、ゲイリーオールドマン、マッドデイモンなどと言った実力派はもちろん、
ラミマレックや、フローレンスピューなど、今をときめく俳優陣も登場していました。
それぞれのキャラクターの演技はとても素晴らしく、オッペンハイマーは内面に抱えた闇、自分の考えと相反する矛盾している行為、自分の心のうちを赤裸々に話す、言葉一つ一つの重みをキリアンマーフィは、見事に演じきっていました。
オッペンハイマーという男の複雑で、難解な内面を体いっぱいで表現し、なんとも言えない感情を観客に植え付けました。
ロバートダウニーJr演じるルイス・ストローズも圧巻でした。
オッペンハイマー最大の敵として蔓延り、オッペンハイマーを失脚させようと、信用を無くそうと奮闘します。
彼の演技は、人間の汚い部分、嫉妬、妬み嫉み、粘着気質な部分をロバートダウニーJr抜群のカリスマ性と、立ち振る舞いで完璧に演じていました。
キリアンマーフィとロバートダウニーJrは、今年のアカデミー賞主演男優賞、助演男優賞に受賞していましたが、それも納得だと感じさせてくれる演技でした。
この映画に登場するキャラクター達は全員、内なる感情に何らかの、問題を抱えてます。
道徳的欠如だったり、精神の脆弱(ぜいじゃく)性を抱える個人であったり、不貞(ふてい)行為の傾向にある人物であったり沢山の性格に課題があるキャラクターが数多く登場します。
戦争という大きな出来事、それが終えても、武力競走、冷戦であったりの問題。
それらの、過酷な状況下で生じるものは、モラルや価値観が欠如し、不安定な感情が芽生えるきっかけと繋がることを表していました。
それぞれの俳優がそれらの役をこなす姿は、その場、その状況にあった演技で素晴らしいものでした。

映像に関しても、一つ一つのシーン、演出が恐ろしく、恐怖を覚えるものでした。
詳しくは伏せますが、オッペンハイマーの視点から見るものすべてが緊張感を与え、演出によって繰り広げられるそれらのシーンは、どこか、胸がざわめくような感覚になりました。
その映像と演出によって、観客に言葉では表現し難い感情を呼び起こすことができる驚異的な才能をクリストファーノーランは兼ね備えているなぁと改めて感じました。
この映画は、視覚的な壮大さと心理的な深みを融合させて、観客を引き込みます。その圧倒的な演出効果によって、観る者に感情的な共鳴を与え、オッペンハイマーを観た後に感じる感情が、言葉では言い表せないもどかしさをダイレクトに受け止める結果となりました。


この映画は、さまざまな意見や評価があることが前提とされています。賛否両論は確実にあります。
戦争に対する考え方や価値観は人それぞれ異なるため、「こう考えるべき!」という一方的な主張は野暮と感じます。
ただ、映画を通じて核兵器の危険性を再認識することができました。
この映画では、原爆のメリットやデメリットが率直に描かれています。
主なものとして、「他国の侵略を防ぐ抑止力となる」という観点と、「道徳的な問題がある」という観点があります。
確かに、原爆の存在が日本との戦争終結に影響を与えたことは事実です。一方で、武力に頼った抑止力の存在は懸念されます。この映画では、オッペンハイマーがヒーローでも悪魔でもない、中立の立場で描かれています。彼の行動や彼の役割に対する感情は、観客の考え方や価値観によって委ねられています。僕自身は、オッペンハイマーは原爆そのものという概念を作ってしまったため、悪い部分もあると思います。しかし、彼の行動を擁護したいという気持ちもあります。彼は純粋に未知なる科学への挑戦を求めていたと感じてしまいます。
一国を掛けた大規模なプロジェクト、当時の時代背景を考えても、参加するのも悪くは無いなと感じてしまう気持ちも分かってしまいます。
オッペンハイマーが全て悪いのではなく、それを作らざるを得なかった、戦争というもの自体が、戦争をしようと仕掛けてくる国自体がいけないと感じてしまいました。
オッペンハイマーが居なくてもどのみち原爆製造計画というものはスタートしていました。
色々積みに積み重なって起きてしまったことであり、戦争がなければこんなことも起こりませんでした。
今作を作ったクリストファーノーランのメッセージには、核の存在を今一度考え直して欲しいという熱い思いが込められていると劇中通して感じられました。
あらためて日本でこの映画が上映されて本当に良かったなぁと強く思いました。
この映画の日本上映に携わったビターズエンドには感謝しかないです。
このように、オッペンハイマーには、戦争、原爆というもののあり方、考えを再度認識するいいきっかけとなる映画でした。
今後、核の使用がこの世から起きないことを願うばかりです。
みきお

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