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オッペンハイマーのjunjuoneのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.7
ノーラン初の非娯楽作ともいうべきか。
今回選んだ題材が、結果として彼のキャリアにおける評価はここに極まれりとなったのかな。。

ロバート・ダウニー・Jrも、水爆を推進する戦後アメリカの要人に扮するが、
AI地球貿易軍の保持を主張してキャップと立場を二分したトニー・スタークの姿勢を引き継ぐデジャブ感があり、MCUでの長年のキャリアに脂が乗って見事勝ち取ったオスカー、といった感じがして、目を細める思いでした。


ノーランの円熟味が増すにつれて、悪いクセ(だと私は思っている)、観客の理解を超えるスピードでセリフを紡ぐのが今回も顕著に見られ、正直、公聴会の意味だとか各証人の立場や意図だとかも非常に掴みづらかった。

3時間の尺でも、これだけの登場人物と、その立場、それぞれの意見と意図、思い込みと事実と、詰め込みたい情報がたんまりありすぎたのだろう。


日本人としては、原爆投下における米国内の議論や、まさに投下に関する部分、そしてその後の捉え方をどう描くのか、みたいなところを少なからず興味のフックとして観てしまうわけだが、
もちろんそんな期待を大きく超えて、この映画ではオッペンハイマーという人物と、原爆が生まれてしまった世界がどういうものなのかを想像させる視野で描かれている。


映画館内では、
科学者たちの会合で原爆投下の是非を問うシーンだったり、広島への投下を電話一本で受けたり、直後のトルーマンとの戦後の核計画に関する会話だったり、、
そういったシーンで日本人として手放しに重く受け止めてしまう情報については、年配者たちのため息がいたるところで聞こえた。


しかし本筋は、戦後の公聴会での赤認定をめぐる話が主であった。

マンハッタン計画のクライマックスとして描かれたのは、ニューメキシコの平原で行われた数回にわたる実験の様子。
あれが投下直前の7月の話とは。。
完成したら、牽制のための保持の猶予はもちろんなく、早く使われる以外選択肢がなかった状況だったということ。
この後急速に開発が進んでから使われることがない世界を作るには、完成してすぐ使うしかなかったのかと、長い戦後を振り返ると複雑な思いになる。


日本人が認識する核爆弾の情報は、被害者としての被害の歴史。

一つの歴史には被害側のストーリーもあれば加害者側のストーリーもある。
この映画も、ノーラン節に圧されて細部が掴みづらかったけど、原爆投下の正当性を推す描写ではないことは明らか。

逆に、加害者の立場で被害者側がとらえた歴史を知る機会があればそれはとても大きな教養となるし、
さらに言えるのは、
加害者の立場で加害者としての歴史を掘り下げる機会こそが一番難しく、歴史教育において自国内で一番薄まりがちなところではないか。

この4方向で歴史の知見を深める必要があるなと、思わせる映画だった。
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