ブラックユーモアホフマン

オッペンハイマーのブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.1
音楽うるっせえ……

トリニティ実験のシーンで思い出したのは『8 1/2』。ロスアラモスで指揮を振るうオッペンハイマーの姿は映画監督のよう。ロスアラモス自体が作られた町、いわば映画のセットのようで。やっぱり映画作りの映画のような見方もできるのではないかと、どうしても考えながら見てしまった。

実際に起こったことと、あまりにレベルが違いすぎるから、そんな例えは不謹慎だと思うけど、プロパガンダ映画を作れって言われた映画監督が一世一代の傑作を作ってしまった、みたいな話にも見えるというか。

そういう意味で言うと、今回の『オッペンハイマー』のアカデミー賞での称賛のされ方は、スピルバーグの『シンドラーのリスト』の時と似てるって言われていたけど、『フェイブルマンズ』との類似性をむしろ指摘したい。本人は良かれと思って作っためっちゃ面白い映画が、圧倒的に人を傷つける力を持ってしまっていたことに、上映した後で気づいてしまったって話。

どちらもユダヤ人の話。『シンドラーのリスト』と同年に制作した『ジュラシック・パーク』にオッペンハイマーの写真を登場させていたスピルバーグのことだから、そういうことも織り込み済みかもしれない、というのはさすがに考えすぎかもしれないけれど。

しかし、だったら、この映画もスピルバーグに作って欲しかった。その方がもっと良い映画になったんじゃないかと思ってしまう。ノーランもすごい仕事をしたと思うけれど。

『TENET』の主人公に名前がなく、単に”主人公”という役名だったことも思い出した。どうして今まで誰も『オッペンハイマー』という映画を撮らなかったのか。圧倒的に主人公であるオッペンハイマーを、主人公として描くというのが、あまりにどストレートすぎるからじゃないのか。でも臆面もなく主人公を主人公として描いてしまう独善性、ナルシシストさこそがノーランらしい、とか意地悪な見方してしまう。

山崎貴よりも、新海誠っぽい。

しかし豪華キャストで楽しかった。出てくるって知らなかった人も多く、オールデン・エアエンライク、ジェイソン・クラーク、デイン・デハーン、アレックス・ウルフ、ジャック・クエイド、マシュー・モディーン、あたりの登場はサプライズ!でした。

しかし軍人と政治家って、いつどこでも愚かよね。
あと急がば回れ。急ぐと良いことない。ゆっくりやろう。
それがこの映画から感じた教訓。

【一番好きなシーン】
・トリニティ実験でグラスを配ってるところ、日焼け止め顔に塗りたくるテラー。(ベニー・サフディはすっかり最高の役者として当たり前の存在になっている)
・広島に落とされた後、スピーチで思ってもないことを流れに逆らえずに言ってしまい完全に引き裂かれるオッペンハイマー。