カロン

イニシェリン島の精霊のカロンのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.3
これはおもろい。大変面白い。
究極のどっちもどっち(だと思いました)

フィクションというのは大なり小なり普遍的な要素を煮詰めているものだと思うが、その究極系。予言者的な存在も含めて、フィクションフィクションしているのに、煮詰まりきってて現実の味がする。

コミュニケーションの退屈さから始まり、イニシェリン島という閉鎖的なロケーション。生の無意味さ。自他との向き合い方。
絶望感に一度気づいてしまうことの不可逆性。
一方、それに気付けないこと。生の中にある希望で今日や明日をやり過ごせてしまうこと。その幸運と、その幸運とトレードオフな不幸。パードリックは本当に退屈で無神経だけど良いやつだし、コルムもそれを分かっている。

その点、本当にコルムの方はどうしようもなかったのだろう。そして決断した。いっそ、親友が警官のように軽蔑するに値する人格なら話は早かったのに。警官に馬鹿にされるシーンでは、葛藤の中で手を差し伸べるコルムが逆に切ない。
ただ、コルムも卓越した人物かというとそうでもなさそうな描写に富むし、何よりコルムがそれに気づいているのだろう。辛い映画だ。どっちもどっち。

コミュニケーション不全として展開するものは、コッテリもコッテリなのだが、映画全体としては割とカラッとしているところもある気がする。見やすい。それが凄い。
こんな映画じゃなければ絶景に感心してばかりであろうロケーションと、会話に挟まるブラックユーモアが、清涼剤的な役割を果たしているだろうか。指が少ないのをネタにするのが早すぎる。
あとロバや犬がずっと素敵。それも良い。それも良いから最後にも効く。

そしてまあ、最後に色々燃えるのは、やっぱりいいよね。ベタだけど。
海岸のラストは、常に対岸にあった内戦も含めて、続き(そして、どこかで訪れる何らかの終わり。その絶望感。)を予感させた。良い締めでした。
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