りっく

ラーゲリより愛を込めてのりっくのレビュー・感想・評価

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
3.0
日本が敗戦を迎えた後もシベリアに抑留された日本兵たちを描いた本作は、戦前と戦後で変わらないもの、変わってしまったもの、変わってほしいと願うものを、回想場面や家族を日本で待つ者たちを描写しながら浮かび上がらせていく。

特にシベリアでも戦前のままの日本の軍隊の序列をそのまま引き継ぎ、歪なシステムを利用することによって不平等を煽るソ連の方針が面白い。これによって、戦争がずっと続く日本兵の絶望が一緒くたではなく、個々の立場によって葛藤や苦悩が異なるものであると丁寧に描写してみせる。その中でも強制労働を統括する立場になる桐谷健太が部下を名前ではなく等級でしか呼ばない/呼べないことが随所で効いてくる。

物語の構造的には若手の兵士である松坂桃李が、帰国する前に病死した二宮和也の不思議なカリスマ性を目撃者として伝える語り部として存在する。だが、松坂と二宮の関係性が、桐谷や安田顕のエピソードよりも弱いため、語り部として物語を進め、締めくくるまでの役割を果たせていない。結局彼が残した遺書は四人に分散され遺族に届けられ、最後には現代から息子が父親に弔いの言葉をかけるため、ストーリーテリングの方法に難がある作品という印象を受けてしまう。
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