イルーナ

ウェンデルとワイルドのイルーナのレビュー・感想・評価

ウェンデルとワイルド(2022年製作の映画)
3.7
『コララインとボタンの魔女』のヘンリー・セリックの、13年ぶりの新作。
その間も企画が流れたりと紆余曲折あったそうですが、こうやって新作を観られて嬉しいです。
さらに脚本に『ゲット・アウト』や『NOPE』のジョーダン・ピールが関わっている。
私としてはジョーダン・ピールに触れるのはこれが初めて。この二人の異才の組み合わせで一体どうなっているのかと言うと……

何と、企業城下町の衰退や刑務所ビジネス問題などに踏み込んだ、まさかの社会派路線!
特に後者については、そのシステムまでもきちんと説明してくれている。
観た後で私立刑務所について少し検索したのですが、聞くだけで真っ青な内容……
囚人はいくらでも替えが効く扱いでまさにモノ同然。
刑務所の場合とにかく人を押し込めるだけで金が入るので、人件費や衣食住のコストがどんどん削られ劣悪な環境に……
しかも票稼ぎのために保守派の議員を蘇生させて富裕層が有利な法案を押し通す、奨励金のためだけに子供を受け入れる養護施設や学校という部分も描かれる。
まともに更生させる気などさらさらないので、そうした子供たちはやがて刑務所送りに……恐ろしい負の連鎖。
ラストの悪徳企業との決着のつけ方も抗議デモという、ファンタジー作品らしからぬもの。
今までのセリックの作風からは想像のつかない、かなりリアルなテーマ。

一方で、その世界観はやはりダークでとても楽しい。
悪魔兄弟は巨大な父親の頭の上で毎日育毛作業をしているが、育毛クリームでラリる!しかもそれには蘇生作用つき!
寝る時は父親の鼻の中で、しかも逃げる時は鼻クソで身代わり人形を作る!
相変わらず狂気の奇想の数々ですが、地獄の遊園地はまんま『モンキーボーン』のダークタウン!
復活した保守派議員は『コープスブライド』に出てきても違和感のない造形。
おまけに悪魔兄弟の馬?の名前がスパーキー……死者蘇生をテーマにした作品でスパーキーって……w
後さりげないけど、氷の張った水たまりの上を車が走り割れる演出、本当にリアルで職人芸を感じました。

ただこの作品、上記の社会問題に加え、死してなお途切れない家族の絆、トラウマの克服、街の復興、悪魔兄弟の遊園地建設の夢……
ちょっとテーマを盛りすぎていて、物語の焦点が絞り切れていない。
冒頭で娘を庇った時はともかく、生き返った後の反応、ご両親冷静すぎでは……?
レビューを見ても、「話が取っ散らかりすぎ」という意見が多くて納得。
子供向け作品で企業城下町の衰退や刑務所ビジネス問題を描いた話なんて珍しいだろうから、少しもったいない。
実際、予告編を見てもどんな話かさっぱり分からなかったからなぁ……これを作る側もかなり困ったんじゃないだろうか。

アニヲタwikiにまとめた記事
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/53709.html
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