めしいらず

美味しんぼのめしいらずのレビュー・感想・評価

美味しんぼ(1988年製作のアニメ)
3.8
子供の頃から今に至るまで多大な影響を受けてきた料理アニメのスタンダード。原作漫画と本アニメ化作品、この5年後に放送開始する「料理の鉄人」が日本人の食文化への意識と関心を良くも悪くも著しく高めたのは衆目の一致するところだろう。遠い存在だった西洋料理は身近になり、知っているようで知らなかった日本の食文化への温故知新、食にまつわる諸問題や間違った常識の意識改革など、それまでの荒唐無稽なグルメ漫画及びアニメとは一線を画するものだった。自称グルマンが巷間に跋扈し始めたのは悪しき副産物だったかもしれない。お話自体は硬派な問題提起の回がありつつも概ねトラブルが無理くりだったり時に二枚舌だったりと玉石混交の感もあるけれど、どんな問題も食を通して解決していく一貫した姿勢が潔い。またキャラクターイメージと声優のハマり具合も見事。
<印象的なエピソード>
「寿司の心」客やメディアに持ち上げられ増上慢となり傲岸不遜な客あしらいをする店主を、握り鮨をCTスキャンまでして逃げ道なくやり込める士郎のやり口が些かやり過ぎな気もするけれど説得力は無類。
「幻の魚」鯖の刺身を推した士郎を所詮下魚だと嘲弄した雄山をぐうの音も出ぬほど返り討ちにする痛快さ。世にまかり通る常識だけで物事を計る愚蒙さを教えられる。
「料理のルール」フランス料理店で料理に難癖つけ別の食べ方を披露して悦に入る雄山に噛み付いた士郎が暴挙とも言える奇手に打って出て再びやり込める。馴染んだやり方に固執し未知のやり方を蔑む姿勢のみっともなさ。様々な価値観を知り受容することは人間関係にも相通じる。
「もてなしの心」雄山への敵愾心に目を曇らせる士郎。材料自慢、技術自慢とは別次元にある真実のもてなしの形。手持ちの材料にどこまで手を尽くせるのか。それはその人から相手への気持ちを示している。雄山の「人の心を感動させることができるのは人の心だけなのだ」はシリーズ屈指の名台詞。
「鮎のふるさと」またしても雄山への敵愾心から材料自慢、技術自慢に陥った士郎の慢心を厳しく諫める雄山。相手の心の奥底に届くもてなしのありよう。故郷の思い出を呼び覚ます味。シリーズを通してベストエピソードだと思う。
「トンカツ慕情」辛かった若い時に受けた恩義をどうしても返したい。成功してもずっと忘れないで生きてきた美しい心のありよう。人の善き心が繋がる気持ち良さ。久々にトンカツを揚げ生き生きした夫を見つめる妻の表情がいい。シリーズ最高の感動回。好きな時にトンカツを食べられる位が偉すぎも貧しすぎもしない丁度いい幸せってなるほどと思う。
「ふるさとの唄」訛りを恥じて己の殻を破れずにいた青年が、天職とも言える仕事を得て妄執から解放されていく。人生において大切なことは自分の弱みを隠すのではなく敢えて晒すこと。自分を乗り越える唯一の方策。それは早い方がよりいいだろう。歳を重ねるほど難しくなるから。
「代用ガム」幼児期に貧しい中で親がしてくれていたことをずっと大事に思う心。そのガムは決して美味しい訳ではなかったけれど、だからって親の気持ちが否定されるはずがない。
「カレイとヒラメ」人が勝手につけた優劣で物事を見て順位づけする馬鹿らしさ。でもそれは知らず知らずのうちに身に染み付いているもの。虚心坦懐でいるのは案外難しい。カレイにはカレイの、ヒラメにはヒラメの良さがある当たり前。人それぞれの好みに準じているただそれだけのこと。
「日米コメ戦争」日本の暗部に切り込んだ社会派な最終回。米の問題一つとっても見えてくる歪んだ政治のありよう。何より内にも外にもはっきりものを言わない中途半端な対応で問題を先送りばかりする日本の弱腰の政治手法が問題を長引かせ根深くしている。かなり踏み込んだ発言と姿勢が印象的。
再鑑賞。
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