タングステン

ASTROBOY 鉄腕アトムのタングステンのレビュー・感想・評価

ASTROBOY 鉄腕アトム(2003年製作のアニメ)
5.0
子供のときは内容が重く、あまり理解が出来なかったため、途中で観ることを止めてしまいました。しかし、リベンジができて良かったです。

昔のアトムを全く観たことがないので比較できませんが、50話という多さで全体がまとまっているため、見応えがあります。作品のテーマに対し、各キャラクターの主張や意思が明確にあり、少し政治的ではありますがメッセージ性が強いです。お茶の水博士が、アトムの考えや心を尊重し、聞く姿勢に一貫しようとしていたのは観ていてスッキリしました。


作画は、背景、キャラクター、その他全てに妥協がない最高級食材で賄われているかのように一級品です。
手塚治虫タッチを残したアレンジは、デフォルメ且つ場面により高精細に崩れることなく描かれており、ドラマチックな場面では、より一層際立っておりました。
ロボットのデザインは、内部の動力が実際に動いて見えるかのように、形だけではなく動的なデザインがなされ、説得力にあふれたロボット達ばかりでした。アトムに通信端末用の入力端子があるなど、凄く細かい部分まで設定があり驚きました。

作中の不吉な場面で流れるピアノ伴奏のBGMが、古典的なホラーのようにシンプルだけど、印象的で好きでした。


近年のアニメのOPは著名なアーティストを起用することは勿論多いのですが、映像そのものの水準が高くなっていると思います。しかし、このアトムの後期OPの「Now or Never」という、楽曲と完璧なまでに整合性が取れた映像は、近年急増しているアニメ的MVでも、まず見かけないレベルのクオリティの高さでした。

特に、エヴァンゲリオンなどで使われている有名なフラッシュカットの使い方が抜群のセンスです。そのまま映像が音楽に合わせて切り替わるのではなく、アニメの戦闘シーンの動きが音のスウィングと綺麗に同調しています。サビではCHEMISTRYの歌声に合わせて、伸びやかで広々とした映像が動くのに対し、m-floのラップパートでは、鋭く尖っており、暗く小さな空間に敷き詰めるかのように映像が転換します。この対比的な表現が、アトムの葛藤と重なっていると思いました。

鉄腕アトムという、まだ心が成長途中で少しあどけなさが残る少年ロボットに対し、容赦なく突きつけられる現実との対比が、子供向けのアニメに対し、ハイテンポなクラブソングを宛てがうことに、リンクしているように感じました。

この高水準の作品を、視聴者は突きつけられることで、アトムが葛藤したように、作品について考えざるを得なくなるような気がします。