都部

お兄ちゃんはおしまい!の都部のレビュー・感想・評価

お兄ちゃんはおしまい!(2023年製作のアニメ)
3.7
フェミニンな色彩/絵柄が統一された本作は、可逆的なトランスセクシャル化による幾許かの男性目線を孕んだ女子達との交流を描いているが、男性目線の下品さを意図的にある程度脱臭した作りをしており、その上でオタク的フェティッシュさを組み込んでいるのは巧みである。
また社会通年上は"人でなし"と判定される引き籠もりという社会的立場に属する語り部が、女児化を通してその責任を一時的に放棄して、成人であること男性であること そして優秀な妹の兄であることから解放され人生に色彩を取り戻す過程を捉えた作品として非常に興味深い内容だった。

本作は一言で『変態的』であると切り捨てることは容易であるが、作品を通して語られる可愛くあることへの偏執的なアプローチは着飾ることを放棄してしまった真尋がそれを取り戻す為の足取りとして好ましい。妹と二人三脚な日々を送りながらも"初めての他者"である穂月かえでの登場による変調は作品の方向性を決定付けていて、彼女が擬似的な姉という名のメンターとしての役割を担うことを鑑みても筋が通っている。

それと比較するとたとえば2話の生理を巡る話は単独のエピソードとしては趣深いものの浮いているようにも思えて、男性であることの放棄に結び付く女性として生きることで生じる当たり前の享受は、以降そうした弊害が語られないことを考えると作品初期の路線模索の産物のようだ。

同年代に成った女子中学生──友人たちとの交友から日常物としての幅は拡張されて、作品としての中弛みは感じるものの賑やかで可愛らしく楽しかった。オッサン臭く言うのならば秘密の花園への参入は男性目線での享楽としては語られず、日常に点在する悩みを共有する友人の獲得によるやり直しという形でのメンタルケアに繋がっているのも面白い。

その結実として他者との旅行が最後のイベントとして用意されているのも分かるもので、近しくなった距離感が袖を引く形で、引き続き本来背負うべき自分であることの責任を放棄する道を最後に選ぶのはなんともいえない後味を生んでいて好みだった。

そうした他者との繋がりの再獲得を追ったドラマとして見れるのもそうだが、優劣という形で破綻してしまった兄妹関係を再構築する物語としても一貫していて、最後までこの二人の関係性が物語の主軸に置かれていたことは作品としての完成度に帰依しているのは分かろうものである。
都部

都部