垂直落下式サミング

葬送のフリーレンの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

葬送のフリーレン(2023年製作のアニメ)
5.0
魔王を倒した後、ゲームクリアのエンディングのその先がみたい!常日頃から思ってた。RPGはどうして目的を果たしたら速やかに終わっちゃうんだろうって不満。僕らの頑張りによって、みんなが幸せに暮らせるようになった世界をもっと堪能したい。そんな欲求を叶えてくれた作品が、葬送のフリーレン。
ずっとファンタジーに耽溺したいなんて、軽はずみに言うもんじゃなかったな。戦って、別れて、残されて、伝説の勇者と無敵の魔法使いの残した偉業は、時間とともに人々の記憶から忘れられていく。今の旅が、魔王打倒とかいうハードなものじゃなくて、くだらなくて優しい世界ってのが、むしろ心を苦しめた。
命が長い。死なない。「葬送」は数多の敵を見送ってきたからついた異名だけれど、仲間も見送ってきたという意味でもあるし、これからもそれは続くという呪いでもある。
葬式でようやくヒンメルと仲間たちとの思い出が自分のなかで大きな存在だったことに気付いたフリーレンが、今度はまた新しい仲間と一緒に思い出を辿っていって、以前の自分では気付かなかった意味を拾っていくわけです。オハナシとしてよくできていらっしゃる。
フリーレンは、もともと共感能力の乏しい人らしい。戦中の殺伐を知っているからか、エルフはそういう種族なのか。勇者たちとの旅のなかで、どうやら世界に対する思いが変わっていったのだけど、ついぞ失うまでは自覚できなかったってところから人生がスタート。
時間の有限さに無自覚で、人の感情がわからない初期フリーレンをみてたら、真面目に生きてなかったころを思い出しちゃって、ダメだった。
お祭りがあるからって実家に帰ってみたら、みんな地域に腰を下ろして地元事業を担ってたりだとか、子供を幼稚園に送り迎えしてたりだとか、いろんな感情呑み込んで地道に世帯主してたりだとか…。そんな日には、自分だけがいつまでも取り残されて、何をいまだにチンタラやってるんだろって、ブルーな気持ちに…。
無敵で最強と言えば聞こえはいいけど、無敵のまんまでいいの?能天気なパーティでフラフラやってもいいけど、各々戦い終えたら、みんな責任ある立場になったり、自分の技を伝えるために弟子を取ったりして、健全な人生を積み上げてる。お前はいつ旅を終えるの?魔王倒したあとも、人生は続くんやで。こんなの呪いじゃんね。
好きだったのは、フェルンが些細なことでキレちゃうから、周り(主にシュタルク)がご機嫌伺いするエピソードが何回も繰り返すところ。毎回フリーレンが、コイツがなんで怒ってんのか要約してくれる。ブー垂れオンナの隣にいて、理由を教えてくれる係なんですね。なるほど、これほど頼りになるお姉さんはいない。おしえてフリえもん。
異世界転生系ほど都合よくないのもいい。チルい脱力系じゃなくて、徹底してシラフ。強い魔法使いも魔族も、一瞬の油断とか、選択ミスとか、知識不足で死ぬ。なろう系みたいな甘えのないシビアな世界観。
人類が積み上げた80年に、10数秒で追いつこうとしてくるクヴァールさん天才かっこいい。フリーレンをして、初見殺しかつ弟子と二人がかりの状況を作らないと勝てなかった腐敗の賢老。魔王以外に、こんなバケモノいていいのかよ。




【全話視聴後】… 2024.3.31

やっぱり、いちばん好きなのはゾルトラーク(人を殺す魔法)を開発したクヴァール先生。作中では、チュートリアルボスみたいに処理されたけれど、かなりの重要人物だと思う。コイツ以前以後で、魔法戦闘の在り方そのものを変えてしまったであろう偉人。魔王軍側の英雄のひとりだ。
ゾルトラークが最強過ぎて人類に研究され尽くされた結果、80年後の人間の世界では一般攻撃魔法と呼ばれるまでに普及しているのは、この作品の特徴である横に長い時間経過を象徴するエピソード。
かつて猛威をふるった強技も、今では対策するのが当たり前のありふれた戦術のひとつでしかない。封印中、時代に取り残されてしまったのではなくて、コイツを基準に時代が進んだのである。
防御無視貫通ビーム強すぎて、対戦環境がゾルトラークぶっぱゲーに。やがて、それを防ぐ魔法が開発され、同時に単純な物理攻撃や自然物を操る質量攻撃、その他からめ手なども見直されていって…そんな人類魔法史の変遷が、いろんな魔法使いが出てくる試験編でイッキにわかるのが面白い。
現代の魔法戦闘はモノを浮遊させたり、火を出したり水を出したりが主流らしく、フェルンの戦いかたは現代の基準からするとオールドスクールな部類らしい。
ヒロインの戦闘スタイルが、実質「現環境対応型クヴァールデッキ」なのが、殺意に満ちた後継者って感じでいいすね。フェルンにとっては、フリーレンやゼーリエよりも、腐敗の賢老様こそが大師匠まである。
真正面からめっちゃ連射することで、魔法学校首席のおすましエリートお嬢ちゃんをボコるところが大好き。なんなら、「複雑な術式ゆえに魔力消費が激しい防御魔法はゴリ押しに弱い」はクヴァール先生が最後に教えてくれた有効作だったりする。
もう、愛弟子だろこんなもん。フェルンよ。ワシの意思は、オヌシのなかに生き続けておるぞ…。エモっ(虚構)