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忘却バッテリーのmaoのレビュー・感想・評価

忘却バッテリー(2024年製作のアニメ)
5.0
あるリトルシニアとの試合がきっかけで野球を辞め、野球部の無い都立小手指高校に入学した山田太郎。平凡な学生生活を送るはずだった彼の目の前には、かつて自分やその他無数の球児の心をへし折り、全国の強豪からスカウトが殺到していたはずの怪物バッテリー・清峰と要の姿が。捕手の要は記憶喪失で、野球に関しては素人同然なのだという──


本来であれば1クール終わったあとにレビューを書くものだが、最初のたった数話でこの物語から離脱する人があまりにも多そうで心苦しく、まだまだ序盤も序盤ではあるのだが、少し思いをしたためたい。


みかわ絵子先生が、前作の打ち切りが決まったあと、筆を折るか悩みながらネームを描き上げた今作。元球児で旦那さんの高嶋先生、中路編集と3人でつくってきたこの物語が、安心安全のMAPPAによって素晴らしいアニメに。

声や音、動きが加わることでよりリアルに〝野球〟を感じられる。眼前に超スピードの硬球が飛んでくる怖さも、原作よりハッキリと伝わってきた。


たった数話でこの作品を見限ってしまう理由の多くが、恐らく「ギャグが寒い」と感じるからなのではないだろうか。ギャグシーンは多々あるが、まあ、ほぼパイ毛のことである。 宮野真守の声に関しては、最初はやりすぎじゃないかと考えたが、宮野真守にしかできないかもしれないと今では思う。

原作者のみかわ先生だって、なにも面白いと思ってパイ毛パイ毛と男子高校生に言わせているわけではない。旦那さんがやるギャグを「ひとコマでスベるギャグ」として漫画で使っていただけなのだが、ジャンププラスの読者が妙に気に入って求めるようになっただけなのだ。パイ毛を面白いと思っているのはみかわ先生の旦那さんと、恥将要と、清峰葉流火と、ジャンププラスの初期からの読者だけだ。(ここは書かなくてもよかったかもしれないが、一応記載しておく)

パイ毛パイ毛と捲し立てたが、要は、この好き嫌いが真っ二つに分かれそうなコミカルさはこの作品の肝ではないということ。本質はその向こう側にあるということなのだ。

よほど肌が合わない、どうしても無理という人にはそっと手を振るが、もっと中身があるものを観たい、くだらない、そう思って切り捨ててしまいそうな人こそ、どうか留まってほしい。

高校野球という名の地獄。

プロの世界とはまた異なる、独特の空気を持つ場所。〝夏〟は一際、その汗が、涙が、残酷に輝く場所。

物語に心を震わせたいわたしたちが求める、まぶしいだけではない青春のすべてと、人生を野球に捧げてしまった球児たちのドラマがここにある。
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