ワンコ

舞いあがれ!のワンコのレビュー・感想・評価

舞いあがれ!(2022年製作のドラマ)
5.0
【言葉が舞い、伝わること】

「どう生きるか」「向かい風に負けずに生きる」

最終回・回想シーンの大河内とばんばこと祥子の言葉だ。

「浩太さん、舞が飛んでるでぇ、IWAKURAのネジ乗せて」

めぐみの言葉も泣かせる。

ドラマの中盤、”IWAKURA”の経営が回復したら、舞が長崎の離島を結ぶドクタージェットを操縦するパイロットになって活躍する物語なんじゃないかって予想していた。

違っていたが、ちょっとだけ当たっていた。

この朝ドラを観ていてずっと思っていたことは、言葉の大切さだ。

最終回からちょうど2週間前の、「あさイチ」に梅津(岩倉)舞を演じる福原遥さんがゲストで出演して、それに母親・岩倉めぐみ役の永作博美さんが番組にビデオメッセージを寄せていた。

永作さんは、一番印象に残っている舞との場面は何かと尋ねられて、浩太が亡くなった後、IWAKURAをやめるか否か議論を戦わせる場面だったと答えていたのだが、そこで声を詰まらせ「(演技で)舞が本気で挑んできたなって感じて、舞も遥さんも成長したって思った瞬間だった......」と、そして「なんで、涙が出てくるんだろう」と涙をぬぐっていたように見えた。

感じたことや、自分の感情を改めて言葉にした時にこみ上げる想いで涙が溢れそうになることは誰にでもあることのように思う。

映画やドラマのレビューで感動したことなどを言葉にして改めて感慨深くなることがあるのと基本的には同じだ。
客観ぶっている人や、マニュアルちっくな通り一遍のレビューしか書かない人、5ちゃんねるに代表される冷笑文化にどっぷり浸かった人にはきっと理解できないことかもしれない。

こうして回想すると、この「舞いあがれ」では、冒頭に紹介した言葉も含めて、改めて言葉の大切さが印象的な朝ドラだったと思う。

貴司の短歌はドラマを通して象徴的な存在であり続けた。
苦しい時も楽しい時も。

「君がゆく新たな道を照らすよう千億の星に頼んでおいた」
「目を凝らす見えない星を見るように 一生かけて君を知りたい」
「深海の星を知らない魚(うお)のためカササギがこぼした流れ星」

更に、日常的な何気ない言葉にも、とても良いものがあったように思う。

「電話、嬉しかったでぇ」

ばんばが、五島の町おこしのアイデアを舞に相談してきた時に、舞がばんばに言った言葉だ。人は頼りにされるとうれしいのだ。

「悠人(はると)さ~ん、しっかりしてくださぁい」

インサイダー疑惑の失意のどん底で飲んだくれて運び込まれた悠人に久留美がかけた言葉だ。

彼女の大阪弁も良いのだが、看護師として軽くカツを入れる感じのほかに、きっと親しい相手だからこそ言える言葉はあるもんだと気がつかされた。
”しっかり”とは、そんな言葉だ。昔、親友に似たようなことを言って、後々感謝されたことがある。

この時、もしかしたら悠人と久留美は付き合うんじゃないかと思った。この予想は当たった。

「大切な友達が幸せになるのは嬉しい。でも、ちょっと寂しいなぁ」

舞と貴司の結婚のタイミングで、久留美が悠人に話した率直な気持ちだ。誰にでもあることだが、心に押し止めるより言葉にすることでより伝わる気持ちがあるのだ。

貴司に気持ちをうまく伝えられない舞に公園のベンチに座るようキッとした目で指示してお説教する久留美も印象的だった。

親しい友人とはこうしたものだ。

「おめでとう」「ありがとう」

めぐみが、結婚の報告に来た悠人と久留美にかける言葉だ。

さすが、永作博美さんだなと感じる表情の演技だった。嬉しい驚きと、安堵感と、感謝の気持ちが合わさったような複雑な感情がとてもよく出ていたと思う。やっぱり永作さんには惚れるわ。

そして、

「できないんだったら、できることを探せば良い」

ばんばが幼い舞にかけた言葉で、そして、成長した舞が脳梗塞で身体が不自由になったばんばにかける言葉でもある。また、このドラマの常に中心にあったメッセージのようにも思える。

途中、IWAKURAは浩太の目指していた飛行機部品を作ることはなかった。しかし、東大阪の工場の力を結集して人が乗るドローンに部品を提供する。

コロナ禍の下の、貴司がパリで随筆を書いたことも、ドローン製作を一歩ずつ進めた現場もそうだ。

出来ることをやるのだ。

この言葉の通りだ。

「どう生きるか」「向かい風に負けずに生きる」

全ての人に負けた言葉だと思う。
今朝の新聞のインタビューで、ドラマなプロデューサーが、コツコツやり続けることの大切さを伝えたかったと話していた。
コツコツとは無縁なうじうじと人の批判ばかりしてる人や、揚げ足取りが得意な人の耳には痛い言葉だ。
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