ワンコ

空白を満たしなさいのワンコのレビュー・感想・評価

空白を満たしなさい(2022年製作のドラマ)
5.0
【ゆらぎ】

この原作を僕は大好きで、平野啓一郎さんの傑作だと思っている。

人は、自分をどんな人間だと思っているのか、どんな存在だと考えているのか。

そして、人は愛する人に何を求めるのか、どこに惹かれるのか、それは自分にないところなのか、それとも自分と共通するところなのか……、決して答えなど見つかるものではない。

現代社会において、自分自身や他者を評価する際の言葉だけではない、熟慮することを放棄してしまったような軽さに、何か鋭い剣先でも突きつけられたような緊張も感じる作品だと思う。

最後に、徹生の言葉として、千佳の明るいところだけじゃない、暗い部分も含めて愛していたのだというセリフがあるが、僕は、その通りだと思う。

人は、この人のこんなところが好きとか、こういう性格が気に入っているとか、決まりきったものではなく、悩み、葛藤し、それでも前に進み、生きようとするような人間らしさ、つまり、”ゆらぎ”のようなものを好きになるように思うのだ。

こうした”ゆらぎ”こそ、人々に共通するもので、それを通してこそ、理解しあえるヒントになるのではないかと強く思う。

ゆらぎは時に大きく振れる場合もあるのだ。

自殺をモチーフにしているが、そうした人を理解するきっかけにもなるような物語だと思う。

もし、僕たちの世界が、こんなふうに理解しあえる世の中であれば、もっともっと悲しみは少なくなる。
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