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アンナ ディレクターズカット版のCinemanのレビュー・感想・評価

3.0
『アンナ ディレクターズカット版〜シーズン1〜』
Joo−Young Lee監督
2022年公開  韓国
鑑賞日 2023年6月21日 Amazon Prime Video

ウソで塗り固められた偽りの人生を送らざるを得なかった女性の物語です。
淡々と物語はすすみますが中だるみしません。
じわじわサスペンスがすすみます。
気づいたら取り憑かれたようにずっと画面を見つめていました。
監督が3年8ヶ月かけて執筆した脚本だけあり設定も登場人物のキャラクターも秀逸です。

主人公のイ・ユミは人を蹴落としたり野心を抱いてウソをつくのではありません。
人に見下されて貧しい境遇で育った自分に劣等感いだき、
その現実から抜け出すためにウソをついてしまいます。
少女の頃にイギリス人の婦人に「感情を顔に出してはいけませんよ」「決して他人に本心を見せてはいけません」と教えられたことを大人になっても守っています。

【Story】
1986年。
町の小さな市場の片隅に洋服の仕立て屋一家が慎ましく暮らしていました。
仕事熱心で誠実で真面目な父親と聴覚障害者の母親と6歳の女の子イ・ユミ。
ある日イギリス人の大佐夫婦が通訳に連れられて服を作りに来ました。
婦人はお店の机の上でお絵かきいしてる可愛らしい女の子を目に止めます。
机の上にはクレヨンで描かれた鍵盤がありました。
「ピアノが弾けるの?」と婦人が声をかけると少女は紙の鍵盤を弾き始めます。
婦人は「私がピアノを教えてあげるわ」と言います。
少女は大佐の家に通うようになります。

ピアノのレッスンから始まりバレエや英会話を少女は習います。
ポーカーを教えてもらっているときに婦人は彼女に忠告します。
「感情を顔に出してはいけませんよ」
「決して他人に本心を見せてはいけません」

2年後大佐夫妻が帰国することになりました。
「本当は差し上げたいのですが高級なピアノだからそうもいきません」
と言って婦人はピアノを売ってくれました。
通訳の若い男は、
「とんでもないですよそんな高い金額を払うことないですよ」
と父親を止めますが、
オヤジさんは「娘が2年間お世話になったお礼ですから・・・」
「何言ってるんですか。何着も服を無料で作らされたじゃないですか。とんでもない人たちだ」と通訳が憤慨しても、オヤジさんは人の良さそうな笑顔でお辞儀をしながら夫妻を見送ります。

次の日から少女が弾く「きらきら星変奏曲」がお店にも聞こえてきました。
調律の狂った不安定なピアノの音で・・・。

1994年。
ユミが一生懸命習っていたバレエのコンクールがあります。
衣装代やら参加費やらのお金がかかります。
ユミの友達がユミに教えてくれました。
「みんながあなたのこと噂しているよ。お店は市場の隅にあるの?お母さんは口がきけないの?」
プライドの高いユミは貧乏な自分たちを馬鹿にしたクラスメートを見返したい。
「今回だけ助けて、コンクールに出たいの」と父親に頼み込みます。
母親はユミをしっかりと抱きしめました。
ユミはバレエ・コンクールで優勝してみんなを見返しました。

1999年
大学入試まで後5ヶ月。
先生は学年トップの成績のユミ(ペ・スジ)を文系大学受験を勧めますが芸術が好きなユミは美大に行くことを決めていました。
ユミの絵は下手なので絵の先生も受験を考え直した方がいいと言います。
「私は自分が決めたらそれをやり遂げるんです」とユミは断ります。

ある日ユミは先生に呼ばれます。
ユミが音楽の先生と不倫をしていたことが警察に通報されたのです。
警察からの話ですので学校内でもみ消すことが出来ません。
若い音楽の先生は「私ではなく彼女が私のことを誘ったんです・・・」と言い逃れするばかり。
必死に責任逃れする先生の姿を見てユミは悔しいやら情けないやら呆れるやら。
不倫事件は街中の噂になりました。
深夜ユミは父親の運転するお店の車に荷物を積んで夜逃げします。
「あいつは停学で済んだのにどうして私だけ夜逃げするの」
普段は物静かで感情を顔に表さないユミは車の中で大泣きします。
ソウルの高校に強制転校させられたユミの下宿での生活が始まります。

2000年
ユミはソウルの大学の受験に失敗しますが父親からかかってきた電話に「受かったよ」
とウソをつきます。
電話のやりとりを近くで聞いていた下宿のおばさんも大喜び。
イ・ユミの嘘にまみれた人生の最初のウソです。

ユミは父親から送られて入学金を使って予備校に通い始めます。
ある日下宿で食事をしていると声をかけられます。
「うちの大学の新入生だって。私は政治外交学科2年のハン・ジウォン(パク・イェヨン)よ」
ユミはドキドキしながら答えます「私は・・・イ・ユミです」
「人見知りだねイ・ユミか。広報誌の記者を募集しているんだけど
ドウ?」
「あ、私経験ないから」

明るく積極的なハン・ジウォンに押されてユミは大学の広報誌編集部に所属することになりました。
編集部に初めて顔を出したときのことです。
故郷のことをみんなから聞かれたので答えます。
同じとこから来ている同級生がいるよ今度一緒に郷友会に出ればいいじゃない。

「私はそこには居ませんでした。父の事業の関係でアメリカに住んでいたので・・・」

ユミの2つ目のウソです。

イヒョン女子大広報誌のマーク入の服もプレゼントされました。
ハン・ジフォンと大学のキャンパスで本を借りたり話をしたりして過ごします。
父親に電話をして合宿費が必要だとか学会の費用が必要だとお金を無心します。
そのお金で服や靴を揃えるので地味で田舎くさかったユミも華やかになってきました。
ソウルの大学広報誌の集まり飲み会で出会ったカン・ジェホ(ホ・ヒョンギュ)と恋人どうしになります。

2001年
レストランで食事をしているときにジェホがユミの入試問題集を見つけて何で読んでいるのか尋ねます。
「海外旅行をするために家庭教師をやっているの」と答えるユミ。
ジェホは交換留学で一年アメリカに行くので旅行をやめて一緒にアメリカに行こうと誘います。
「母さんも言ってるんだ。卒業したら結婚して二人で留学しなさい」って。
嬉しい申し出ですが不安もいっぱいなユミ・・・。

久しぶりにユミは実家に戻り「私、優秀奨学生に選ばれたの。アメリカで一年間英語を学べるチャンスを大学がくれたの。奨学金は出ないんだけど」と報告します。
「そうか〜」と父親。
「お父さん、今回だけ助けて。私本当に頑張りたいの。こんな機会は二度とないし、お願い」
またもやユミは「今回だけ助けて」と父親に甘えます。

ジェホとアメリカ行きの搭乗口待合室にいました。
ジェホに母親から電話がかかってきます。
「あの女はニセモノよ。パパがイヒョン女子大を調べたらイ・ユミなんて在籍していないの。そんな学生はあの大学にはいないのよ」

ここで第一話が終わります。

ちょっとしたウソから始まりウソの上塗りで固められたユミの人生。
ソウル市長夫人にまで登りつめたユミの人生はまだまだ始まったばかりです。

【Trivia & Topics】
*ディレクターズカット版。
動画配信サービス会社クーパンは監督の許可なく全6話にカットして放映してしまいました。
編集が全く違う物語でまるでユミが単なる悪女のように見える編集なので監督は猛抗議しました。
助監督らドラマ制作スタッフ6名も監督に同意して全6話版からスタッフ名を削除するようクーパンに要請します。クーパン側は監督に謝罪し全8話の『アンナ ディレクターズカット版』が改めて配信されるようになりました。

*効果的な音楽。
本作では音楽がとてもうまく処理されています。
特に印象的なのが2曲あります。
ユミが子供の頃に習ったモーツァルトの「きらきら星変奏曲」。
物語のふしめで何度もこの曲が変奏されます。
もう一曲はユミが子供の時にコンクールで踊ったバレエ作品「エメラルダ」
1831年にヴィクトル・ユーゴーが発表した小説『ノートルダム・ド・パリ』に着想して作られた3幕5場のバレエ作品です。
印象的なシーンで流れますのでお見逃し、否、お聴き逃しのないように。

*ぺ・スジ。
主役のイ・ユミを演じるペ・スジはそれまでの韓国の恋愛映画の歴代1位を塗り替えた『建築学概論』(2012)のヒロイン役が評判となり「国民の初恋」と呼ばれるようになったアイドル出身の女優です。
本作では10代の高校時代から30代の現在までを演じています。
本来の自分イ・ユミとウソの自分イ・アンナを見事に演じ分けています。
女優業もやりつつモデルとしても活躍しています。

*シン・ジョンア学歴詐称事件。
主人公アンナのモデルとなった実在の人物がシン・ジョンアです。
2007年に学歴詐称の大スキャンダルを巻き起こしました。

【5 star rating】
☆☆☆
(☆印の意味)
☆☆☆☆☆:超お勧めです。
☆☆☆☆:お勧めです。
☆☆☆:楽しめます。
☆☆:駄目でした。
☆:途中下車しました。
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