Cineman

不適切にもほどがある!のCinemanのレビュー・感想・評価

不適切にもほどがある!(2024年製作のドラマ)
4.0
「不適切にも程がある」全10話
金子文紀、坂上卓哉、古林淳太郎、渡部篤史、井村太一監督
2024年 日本
鑑賞日:2024年3月6日 Netflix

クドカン&阿部サダヲのドラマが気にならないわけがない。
放送開始と同時に観た。
ところがピンと来なかったのでその後見逃していた。
今回再挑戦。

今回は観始めたら止まらなかった。
こんなに面白かったのか。
前回第一話で理由もわからず途中下車してしまったのは何だったのだろう。
第5話あたりから俄然面白くなってきた。
見事なタイムスリップものだった。

コンプライアンスが厳しい令和時代(2024年、低成長期)とそうではなかった昭和時代(1986年、安定成長期)を行き来するタイム・スリップものなので、
令和における不適切な表現についての注意を喚起する注釈テロップが何度も挿入される。
このテロップは真面目なのか非真面目なのか。
なにはともあれ不真面目ではない。

不適切にも程がある」は“宮藤官九郎&阿部サダヲ”フレーバーが全編ムンムン立ちこめる最上のエンタテイメント・ドラマ。
何度も見直して楽しめる作品でした。

【物語の概要】
1986年(昭和61年)と2024年(令和6年)とのタイムスリップを軸に繰り広げられる物語である。

東京都葛飾区立第六中学校の体育教師で野球部の顧問でもある小川市郎は、スパルタ教育と荒々しい言動が特徴。
私生活では妻に病気で先立たれ、17歳で高校2年生の娘・純子と暮らすシングルファーザーでもある。
そんな彼がある日学校からの帰りに乗った路線バスが、38年後の2024年にタイムスリップしてしまう。
行きつけの「喫茶&バー すきゃんだる」のトイレの壁が謎の空洞になっていて、そこを通るとなぜか1986年へ戻ることができた。
2024年の世界で出会ったスマートフォンとシングルマザー犬島渚のことが気になり、
前回タイムスリップした時と同じと思われる時刻のバスに乗ってみると、そのバスは自動操縦のタイムマシンだった。
タイムスリップした2024年の居酒屋で隣り合わせになった3人組の客の会話から、
様々な言動に対する意識が1986年の時点よりかなり厳しくなっていることを知る市郎。
その後、2986年へ戻るために「CAFE&BAR SCANDAL」のトイレを再び使用しようとするが、和式トイレから洋式トイレにリフォームされていて、謎の空洞は消えていた。
〜公式サイトより〜

【Trivia & Topics】
✥大笑いできるタイムスリップ作品と言えば。
「不適切にも程がある」は笑わせるにも程がある傑作ドラマでしたが大笑いするタイムスリップ映画が『サマータイムマシーン・ブルース』(2005)です。
宮藤官九郎は劇団「大人計画」のメンバーですが『サマータイムマシーンブルース』も京都の劇団「ヨーロッパ企画」の舞台を映画化した作品です。
茹だるような夏休みのある日のこと。
とある大学の「SF研究会」の部室のクーラーのリモコンが壊れてしまいました。
そのさなかとつぜん部室にタイムマシーンが現れます。
タイムマシーンに乗って昨日の部室に行きリモコンを持ち帰ればクーラーが動く。
かくて昨日と今日とを部員たちがわさわさ行き来する映画史上最も地味な空間移動に抱腹絶倒するタイムマシーン映画の傑作が生まれました。

✥クドカンの想い。
宮藤です。
連続ドラマを書き始めて24年。プロデューサーの磯山さんとの付き合いは 25年になります。演出の金子さんとも25年。阿部くんとは32年。一度も絶好されることなく今日に至ります。
「池袋ウエストゲートパーク」の第一話、長瀬智也くん扮するマコトに、幼馴染みの風俗嬢(矢沢心さん)が「おいでよ。マコっちゃん、安くしとくよ」と声をかける。
そのやりとりを聞いていたマコトの母ちゃん(森下愛子さん)の一言。
「抜いてもらいなさい」
「うるせえババア!」
これが2000年当時のガイドラインだと思う。
そして24年後のガイドラインが、
「純子。てめえチョメチョメしてねえだろうな」
「まだだよ、クソじじ!」
僕は変わってない。けど、世の中は変わったんだな、としみじみ感じます。過激な表現を誰も求めなくなりました。BPO(放送倫理・番組向上機構)に怒られる前に視聴者が離れて行く。過激さよりも緻密さが好まれる。伏線回収とか、刺さるセリフとか、涙腺崩壊とかが好まれる。
日常も変わりました。オフィシャルな場で下ネタや毒舌などを聞く機会が滅多になくなった。誰も失言しない。みんな気をつけている。だからせめて自分だけは、か弱き大人の代弁者でいよう。せめて僕のドラマくらいは解放区にしよう・・・なんて考えたことは一度もなく、面白いかどうかだけで判断しています。今も24年前も“面白い”が“不適切”を上回った表現だけを台本に書き起こし、書いた以上はそれなりに闘おうと思います。
僕の作品を今だに「中2男子のわちゃわちゃ感」「女性を排除している」「ホモソーシャル的」と表する人がいるらしい。いやいや。男子校に通っていたのなんてもう36年前だし、磯山さんはじめプロデューサー陣は全員女性、事務所の社長もマネージャーも女性、家に帰れば奥さんと娘、実家に帰れば母と姉。俺の周りは女性ばかり。僕のヤバい部分が辛うじて世間にバレずに済んでいるのは、女性陣が踏ん張って防波堤となってくれているおかげかもしれない。
 この本を手に取って下さった方ならわかると思いますが、僕自身は決して「昭和は良かった」と遠い目をする懐古主義者でもなければ「なに言ってんだ、多様な価値観が認められる令和が良いに決まってるだろう!」というアップデート至上主義者でもありません。奇しくもCreepyNutsさんが主題歌「二度寝」の歌詞で仰っているように、どこにいても「こんな時代」と思ってしまうのが人間で、今じゃない時代への憧れ、郷愁があるから進化、成長するんじゃないかな、というようなことを、この人は面白おかしく伝えたいんだなと、改めて読み返して考えました。
最後に、最高のパフォーマンスを見せてくれたキャスト陣、それを最大限に引き出すためのセッティングをしてくれたスタッフ陣、特に今回は新作ミュージカル✕10話という離れ業を見事成し遂げて頂き、感謝に耐えません。

〜この文章は「不適切にもほどがある!」宮藤官九郎書き下ろしシナリオ完全収録 (KADOKAWA刊)の宮藤官九郎の“まえがき”です。

【5 star rating】
☆☆☆☆☆
(☆印の意味)
☆☆☆☆☆:超お勧めです。
☆☆☆☆:お勧めです。
☆☆☆:楽しめます。
☆☆:駄目でした。
☆:途中下車しました。
Cineman

Cineman