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最高の離婚のslowのレビュー・感想・評価

最高の離婚(2013年製作のドラマ)
5.0
「人生って時に拷問のようなもので、少なくとも自分にとってはそうで、なんだけど、他人のそういうあれを見て、何かを得る人もいると思うんだよ、人の振り見て?我が振り直せ的な」
「ふ〜ん、隣の芝生的な?」
「え?それって意味変わってきちゃうよね?今、そんな話してないよ?どちらかと言えば辛いって話を、どちらでもなくただただ辛いって話をしてるんだよ?青く見えるところなんて皆無でしょ?」
「え?隣に芝生あるんですか?行ってみたいな」
「何で?何で話そっちに行っちゃうかな」
「…めんどくさい」

この人たちはちゃんと実在していて、今もわたしたちと同じように暮らしているんじゃないか。坂元裕二脚本作品には、よくそう思わされる。本作もシリアスに寄り過ぎないようコメディのさじ加減で物語を絶妙にコントロールする繊細でいて力強い脚本と、当時若手から中堅になった頃の成熟期を迎えた役者たちの個性とが結実して素晴らしい作品となっていた。言葉と勢いと安定感が良い塩梅で、会話や挙動に何度も笑わせてもらったし、思わずもらい泣きしてしまうシーンも多々あった。役者って凄いな。オープニングでよく流れていたサザエさんで流れていてもおかしくないだろう軽快な音楽も良かったし、カラオケの歌声(選曲)も好き。エンディングまで飽きさせない過剰サービスに胸だけでなくお腹まで毎回毎回いっぱいだった(褒めてる)。不協和でしかないのに関わり合わずにはいられないのは、人間の弱さであり強さでもあるんだろう。とんでもなく細く心許ない安全ベルトひとつで乱暴に振り回されるアトラクションのような、とても穏やかではない物語だけれど、そのベルトが人間の唯一信じなきゃならないものでできているというか、だから、わたしたちもそれを信じて見届けたくなる。もうこれ沼ですよ、沼。辛い。最高に辛い。一度観始めたら抜け出せなくなる拷問ですよ。
最後に。思えば八千草薫という人には惹かれっぱなしだった。『拝啓、父上様』『ありふれた奇跡』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』など、好きなドラマ作品には決まって八千草薫という名があり、どれもお茶目な役柄というよりは、存在そのものだった。映画で観た彼女の作品は『雪国』が最も古いものだったろうか。本当昔からいい意味でイメージが変わらない人。その当時の演技の評価などは知るところではないけれど、晩年の彼女が多くの作品に貢献してきたことを、わたしは忘れないと思う。ずっと大好き。ありがとうございました。
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