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真夜中のミサのギャスのレビュー・感想・評価

真夜中のミサ(2021年製作のドラマ)
3.4
悪意のカケラもなく人はどこまで悪魔になれるのか。
熱心な信者は、良かれと思って他人を巻き込み、救いを説く。

個人的に
まさに、反ワクチン信者の話かと。
今見ることに意味のあるドラマかもしれない。
 
司祭よりも大活躍のベヴァリーのマシンガン説教のすごさ。彼女はこの世の間違った人々の代表としてほぼ主人公の勢いだった。
彼女がどんな論法で洗脳していくのかを注目して見るのも面白い。
論点ずらしや、聖書の間違った引用、都合の良いピックアップなど、
正面切って間違っていると言いにくい"上手い"手法の大集合。
フラナガンはSNS世界のバトルをパロディにしたのかと思えるほど。

そしてラストシーンの悲しいまでの美しさまでもが、コロナ死を思い起こさせる。

ホラー要素は低め。


ネタバレ
ソファーの上で交わされる生と死についての会話はとても深く美しく、
人間として生き物として原子の集合としての存在に、神など持ち出さなくても永遠が確かにあることを信じさせてくれる。
命の最後の瞬間は、美しい思い出を記憶するのに忙しくて恐れる暇がない、という言葉(←ニュアンス。個人的解釈)に、物質的な永遠さとは逆に人間としての"意識"や"思い出"の尊さが際立った。
(脳の中でスパークするシナプス。私たちの思い出はどこに何として蓄えられているのだろう)
このシーンだけでも見る価値があるのでは?

保安官による、異教徒へのレイシズムの仕組みの話もとてもわかりやすかった。
かつ、それは表面的でなく、彼の保安官という立場や、異教徒として狂信的な人々を外から見る目線など、物語にしっかりと組み込まれていた。

ラストの、炎に縁取られる島の景色は、
あまりに美しい。
自分たちが間違っていたことを悟り合唱で朝日を迎えるシーンも出来過ぎなくらいだ。
保安官の父親が先に倒れたところは救いさえ感じた。息子が燃え尽きるところを見ずに逝く。それこそ"神"の意向か。

それにしても
結局は、信仰心が厚く聖書に詳しいことで他の人間よりも愛されたかったという私情をすり替え、神という主語にして選ばれる救済されると大きく説教したベヴァリー、
司祭という身ながらもうけた子どもと密かに愛した人とやり直したかっただけの司祭、
あまりにも小さい話になったところが大きな皮肉だった。
おそらく、どんなに主語が大きな話も、結局は私情に還元されるのだろう。


唯一のツッコミどころは、
翼といってもコウモリのような羽根のない天使(堕天使、もしくは普通に悪魔)の
アホすぎる存在感か。
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