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胸騒ぎのワンコのレビュー・感想・評価

胸騒ぎ(2022年製作の映画)
4.5
【もう少し楽しみたい人のために】

最近の日本のホラーにエセ社会風刺的で酷いものがあった(「変な家」のことではありません)けれども、これはホラー好きも楽しめるし、ヨーロッパに現在潜む不穏な感じを象徴的に表した映画作品になっていると思う。

アメリカで開催されるインデペンデント作品中心のサンダンス映画祭でプレミア公開され非常に評価の高かった作品だ。

この映画がオランダとデンマークの合作で、そして、その内容を考えると、どうしても、現在EU(欧州連合)に漂っている閉塞感や不穏な空気を考えざるを得ない。

更に、二つ併記されたオリジナルタイトルの言葉「Gaesterne/Speak No Evil」の前者はゲストという意味だが、後者は日本でいう「見ざる🙈、聞かざる🙉、言わざる🙊」の「言わざる🙊」の意味であることも実は重要な気がするのだ。

英語では「see no evil, hear no evil, speak no evil」と日本同様セットで話されることが多い言葉の最後のフレーズということになる。

(以下ネタバレ)

オランダはEUの前身となる共同体の当初からの参加国で、ユーロ圏のコア国の一つとされる重要な国だ。
経済的にも安定しているが、しかし、域内での影響力はドイツやフランスが強く、財政など常に問題を抱えているイタリアでさえ、G7のひとつでもあり政治的な発言力は強い。

更に、ヨーロッパ有数の大手半導体関連会社を複数抱え、日本と同様、アメリカから中国向け輸出規制でプレッシャーを受けている。
また豊かな経済観光都市のアムステルダムやロッテルダムに加えて、実質的な首都とされ国際司法裁判所など国際機関を抱えるハーグなどあるものの、田舎は決して豊かとは言えない。

加えて、移民問題も抱え、ヨーロッパの中でも近年、極右ポピュリズムが大きく台頭した国でもある。

無職のパトリックがオランダのチーズが一番美味いと声を荒げて主張していたところに一部のオランダ人の不満が表されている感じがする。

一方、デンマークはEU加盟国だが唯一例外的に統一通貨ユーロに参加していない。以前デンマーク国民が国民投票でユーロの採用を否決したためだ。
だが、ほかの国でポピュリズムが膨らむなか、今のデンマークの世論調査ではユーロ参加支持が多数になっていて、近い将来のユーロ採用が現実になりつつある。デンマークはどちらかというとオランダよりリベラルなのだ。

そして、デンマークはオランダよりちょっとだけだが、一人当たりのGDPが高い。

こんな背景を知ってると少し楽しいかもしれない。

こうして、デンマーク人親子がドイツを通ってオランダの田舎の友人宅(?)に泊まりがけで出かけるのだ。

さて、「speak no evil 」については、伏線が最初に用意されていて、それが終盤で回収されるように思えるが、まあ、子供の舌👅チョン✂️は、世界でずっとあるだろう幼児虐待のメタファーだとしても、見ててあまり気持ちの良いものではない。

そして、僕は「speak no evil 」の残りの部分が実は本当のテーマで、つまり、「see no evil, hear no evil, speak no evil」の前の方の二つ「see no evil, hear no evil」つまり、真実を”見て見ぬふりを、聞いても聞かぬふり”をして、「言わない」だけなんじゃないかと示唆しているんじゃないかと思うのだ。

まあ、いずれにしてもヒトコワだ。

減点は、子供の舌👅チョン✂️と、ありがちなイラつく登場人物のわざとらしいチグハグな行動だ😁
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