Yoshishun

猿の惑星/キングダムのYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

猿の惑星/キングダム(2024年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

“シーザー3部作からの焼き直しと差別化”

1作目に匹敵する高評価を獲得したシーザー3部作に続く、『猿の惑星』シリーズ9作目。ルパート・ワイアット、マット・リーヴスを引き継ぎ新たにメガホンを撮ったのは、『メイズ・ランナー』のウェス・ボール。次作が実写版ゼルダなだけあって、人間との共存と対立を巡るシーザー3部作と違い、RPG風冒険譚としての趣が強くなった。しかしそれと同時に、シーザーがどのように人間を愛し、憎み、そして共存を図るよう模索していったのかという重厚なドラマ性は失われたようにも感じた。

シーザーの死から約300年後。明確に『猿の惑星 聖戦記』の続きであることが提示され、シーザー亡き世界でシーザーの意志を継ぐ者、シーザーの教えを歪め利用する者とで対立構造が生み出されていた。そこには猿が決して触れてはならない、人間の遺産を巡る陰謀と裏切りが存在する。まさに人間同士が対立するきっかけとなった暴力装置が隠されていることで、これを猿が利用すると同じ悲劇を繰り返すことに繋がりかねない。これはシーザー3部作には無かった新たなテーマといえる。

本作からの主人公ノアは、前作までのシーザーとは異なり、イーグル族と呼ばれる部族で生まれ、猿の手によって育てられてきた。人間という存在もエコーという名で呼び、かつて地球の支配者は人間であったことさえも知らない。そんな人間の歴史に全く無知であったノアの前に、謎の女性であるノヴァが現れる。初めて見る人間に動揺を隠せないまま、シーザーが持ち帰った人間の物と思われるボロ布が原因で集落は崩壊。父は殺され、村の猿たちはプロキシマスの独裁が蔓延る王国へと連行されてしまう。父との関係性や、何故プロキシマスは人間を憎むようになったのかがより明確になっていたらノアが人間への思いや成長録としてもよりエモーショナルなものになったと思うと勿体無く思えた。また、ノアがノヴァを信頼する決定的な瞬間が、ノヴァが喋り出した辺りからというのもやや希薄に思えてしまう。
また、猿の惑星ではお約束のオランウータンが登場し、本作ではラカがそれに該当する。シーザーの教示を伝えてきた種族の最後の生き残りという重要人物ながら、何と中盤で川に流され離脱。しかし1作目では普通にオランウータンが生存していたので、整合性を取るため次作以降で再登場することは考えられる。にしても、オランウータンには優しかったシリーズで最も哀しい最期を遂げてしまうのは中々新鮮だった。

前半は旅の始まりとノアが王国へと辿り着くまでのゴリラとの追いかけっこ、後半は王国での独裁政治と人間が生み出した武器を巡る陰謀が描かれ、前半パートは掴みでノアの境遇や冒険のきっかけを淡々と描いているため、やや退屈さを覚えるかもしれない。それでも道中での人間狩りはまさに1作目のオマージュであり、音楽もそのまま流用されている等、シリーズファンへのサプライズはちゃんと用意されている。ラストの交信先が1作目の博士たちであったら尚良かったように思うが、時系列上の矛盾が発生するので致し方なし。

映像面は申し分なしといえる。かつて人間が暮らしていた巨大都市に草木が生い茂り完全に廃墟と化しているシーンも壮観であり、最早実写と変わらない自然描写も素晴らしい。極めつけは時折ドアップになるノアやスーナの表情がコーネリアスっぽくも見えるように、やや着ぐるみ感を残している点に尽きる。背景もCGまみれな場面ではやや安っぽさも感じさせなくはないが、ここまで表現できてしまうハリウッドの底力を強く感じた。

王国は夜中に猿だけでなくノヴァをはじめとした人間が普通に外出できる程にセキュリティがガバガバ過ぎたり、ノヴァはノヴァで目的のためとはいえひたすらノアを振り回した挙げ句、どの面下げてラスト再会しに行ってるのかが腹立たしく感じてしまう。おまけに王国の建設場所も海岸沿いでかつ橋が木製の時点で、今後の展開が予想できてしまうので終盤の洪水被害も特に驚きはなかった。わざわざ施設内から上に昇ってくのではなく、崖登ったらいいんじゃ?と思わなくもないが、序盤の頂上まで登り詰めたのがノアのみという伏線が効いてくるのでその辺は御愛嬌ということだろう。

新章の幕開けとしては、ノアをはじめとした猿たちの設定や、あくまで序章により新鮮味のない冒険に踏みとどまっているため、無難な出来といえなくもない。しかし、シーザー3部作には無かった、人間の遺産を巡り人間と同じ末路を辿りかねない猿同士の衝突という側面では斬新であり、面白く観れた。個人的にはシーザー3部作と1作目はそれ程でもなく、2作目で大いに化けた事例もあるため、ノアの旅路も次回作から段違いで面白くなっていく可能性はある。旧シリーズの1作目〜3作目にあったSF要素を盛り込んできそうな次回作には、更にシーザー3部作とは異なる世界観で突き進んでほしいと思う。
Yoshishun

Yoshishun