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さらば、わが愛/覇王別姫 4Kのmayumayuのレビュー・感想・評価

4.2
ものすごい厚味のある映画だった。ほぼ三時間だがあまり長さを感じなかった。

第二次世界大戦終戦少し前の京劇が隆盛を極めた頃から、終戦、文化大革命、第一次天安門事件くらいまでか。
京劇の劇団で育った二人の男性俳優と途中から彼らの人生に関わるひとりの女性。時代に翻弄されながらの生き様を描いている。
幼稚ささえ感じられるティエイー(レスリー)の嫉妬。戸惑う友人。友人の妻は戸惑い、ティエイーを遠ざけようとする。
話はここで終わらない。
戦争や権力者による俳優の搾取、その時代によって持ち上げられたり貶められたりする京劇。

ここからはネタバレを気にせず書くので、内容を知りたくない方はお気をつけ下さい。











例によって、映画紹介にあるあらすじくらいしか見ずに観に行ったため、チラシや広告の圧倒的な女形レスリー推しにすっかりミスリードされた。
もちろん今でいうLGBTQを描いてはいるが、それは要素のひとつ。ひとつにすぎないと言ってもいいかも。
あの時代においては「よくあること」だったであろう、子どもの身売りや虐待。文化や思想の弾圧、人間の嫉妬、追い詰められた人間が取りうる卑劣な行動。思想により反思想的な人間に人間が取りうる残虐な行為。戦争。日本軍の満州への侵略。戦争が終わると上下が全く交代しうるという事実。ドラッグ。芸への鍛錬、俳優としての矜持。芸術への興味関心、愛。などなど描いている要素は沢山。
レスリー•チャンは間違いなく美しい。そして欲望の翼などと比較すると抑えめの演技だと思うけれど、眼差しで苦しみや感情が滲み出るかのようだった。パンフレットによると、監督は「花の影は演技だったが、本作では撮影中彼は役柄そのものだった。」と言っている。
女にも男にも好かれる役のチャン•フォンイーは、からっとした笑顔が役柄の好漢にあっていたと思う。
でも、意外とコン•リーが私は印象に残った。
ドラッグの禁断症状に苦しみ、母を呼び寒がるレスリーを抱くところ。追い詰められた異常な状況とはいえ、最愛の人からの信じられない言葉を聞く時の光を失っていく表情。真剣をレスリーに返し、静かに去る時の悲しみにみちた表情。すごいなと。
少年時代の劇団でのシーンは正視するのが辛かった。叩かれ、罰され、上手くなってきて目立つようになると今度は搾取される。
中国は、広い国土の多民族国家であり、はるか昔から戦乱が絶えず、刑罰が苛烈なイメージがあるが、割と近代、むしろ現代に近くなってもやはり苛烈である。
この映画、素晴らしかったが、この4kの映像は果たして今本国で上映されるのだろうか。されているのだろうか‥

興味ある?と聞いたら二つ返事でついてきた14歳の娘と。初めて阿佐ヶ谷の映画館に行ったが、雰囲気のある素敵な場所だった。
「ティエイーは何度も何度も死にたいくらい辛いことあったと思うんだけど、ずっと生き抜いた。生き抜いたのに、どうしてあの時だっだんだろう?」
という私の疑問に、「また二人で演じられたからかなぁ」と言った娘。きっときっとそうなんだろうね。
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