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青春18×2 君へと続く道のしののレビュー・感想・評価

青春18×2 君へと続く道(2024年製作の映画)
3.2
まさに「いい感じにまとめる」のがうまい職人監督・藤井道人の映画だ。風景は美しく、旅先で出会う人はいい人ばかり、しかし実はキャラクター(劇中の言葉でいえば「人情味」)にあんまり興味なさそうなこの感じ。結局ベタベタで塗り潰すところ含め『すずめの戸締まり』感がした。

ほとんど何も新規性がないどころか、この監督としても『余命10年』を既にやっているので、既視感が何重にも生まれる。言ってしまえばそれっぽさの数珠繋ぎだが、相変わらず過剰なほど景観を強調する映像や、(回想というより)時系列操作と反復のメリハリによって観れてしまうのは流石だ。

しかしこれは『余命10年』と全く同じことが言えるのだが、せっかく旅を通じた出会いや別れを美しく描いているのに、終盤でいつもの「泣かせる劇伴&涙ボロボロ」の釣瓶打ちモードに入ってしまうので、結局は生の豊かさより未練がましさの方が強調されてしまうのは本当に残念だ。「ゴールは特になく、ただ自分を確かめる旅」という、あのヒロインだからこそ抱けたカラッとした旅の様子を主人公が継承するだけで良かったのに、終盤になると一転して「美しくエモーショナルに青春にサヨナラを告げる」という明確なゴールが設定されてしまうのはチグハグだろう。

主人公に対して真実を最後まで告げないヒロインというのも、逆に未練を醸成させるために都合のいいキャラクター描写だなと思う(これも『余命10年』と同じ)。というか、あの状態でもひたすら美しい絵を描いている「健気な」姿とか、あまりにそういう人を美化しすぎではないか。そもそも、ヒロインの真実というのも、観客にとってみれば序盤からフラグ立てまくりなので隠す意味がない気がするし、その上で終盤でノスタルジーやら未練やら何やらの波状攻撃をされると、やってることが前半と後半で違わない? と思ってしまう。

もっというと、この前半の旅の描写についても正直あんまり手数がないなと思ってしまった。ドローンで見せて、グリッド線が交差するところに人物を置いて……みたいなことの繰り返しで一辺倒だ。たとえば、トンネルを抜けた先の銀世界を主人公視点で見せてくれたりはしない。そうなるとなんというか、映画というより観光プロモーションビデオを見ているような気分になってくる。客観の映像体験から、いかにキャラクターの主観的体感に迫るか、みたいなところをもう少し突き詰めてほしい。あくまでも演者の素晴らしさに助けられている感じがある。

藤井道人監督は、「まとめる」ことに関してはまさに職人的な手だれなのに、毎回劇的なイベントに頼って対象に迫れないまま表層的に終わってしまう感じがある。劇的な出来事を起こすのではなく、むしろ表面的には何も起きていないような映像を、PVではなく映画として成立させる、みたいな企画が見たい。そろそろ「劇的な何かを排した藤井作品」が観たいと思うのだ。
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