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トラペジウムのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

トラペジウム(2024年製作の映画)
4.0
【脆くてグロい不等辺四角形(trapezium)】
動画版▽
https://www.youtube.com/watch?v=ShMzkBYTSZE

X(旧:Twitter)で物議を醸しているアニメ『トラペジウム』。本作は、ホロライブ所属のVTuber・星街すいせいが主題歌を歌っていることで興味があったのだが、どうやら主人公の性格に難があるらしく、「ヒロインよりもむしろヴィランなのでは?」という感想も散見される。ただ、フィクションにおいて共感からかけ離れた人物を通じて人間を描くことは重要だと思っているので期待が高まり観てきた。原作は元・乃木坂46メンバー高山一実とのことだが、アイドルグループには疎いので純粋な映画として評を書いていく。

まず、本作の特徴としてアクションだけで物語られておりプロセスがないことにある。たとえば、主人公の東がアイドルに憧れているのは分かるが、そこまで執着するに至った経緯は語られることはない。また、自分の学校ではなく他校の美人を集めてアイドルグループを結成しなければいけない理由も明確に語られることはない。常に東の目線で語られるので、都合の悪いことは希釈されているのだ。なので、よく映画を凝視しないとわからないところがある。たとえば、彼女がアイドルになったとたん取り巻きができる一方で、陰で悪口を言われており、彼女が窮地に陥ると誰も手を貸してくれない点を分析することで、「東は学校に友達がいないから他校に頼っている」ことが分かる。また、仲間と一緒にSNS運用を始める場面。仲間は個性を出してコメントや「いいね」をたくさんもらっているのだが、東の画面は提示されない。ただ、彼女は仲間の活動を見てノートに「SNS運用を頑張る」と書いているところから上手くいっていないところがうかがえる。一見、薄っぺらく見えるのだが、それは他者を着飾り薄っぺらい自分を誤魔化している人間像を主軸に置いているのである。だから映画としては一貫性があり、だからこそ観ているうちに胃がヒリついてくるのだ。

映画は、明らかに不安定な不等辺四角形(trapezium)を形成しながら、いつ破局するのかわからない宙づりを維持し続ける。仲間は中盤まで、東の本心を知ることはない。単に青春を謳歌する友達としてロボット制作やボランティア活動に励んでいく。だが、アイドルになるにつれて精神が崩壊していく。特に、ロボット制作が好きなくるみは、人見知りなこともあり、しかもロボット好きのアイデンティティを「アイドル」に上書きされてしまうことで実存の危機に瀕する。それでもアイドルを目指そうとする東にテオレマもの的な怖さを抱くのである。

当然ながら、こんな不等辺四角形は崩壊する運命にあるのだが、100%改心させないところに本作の人間における誠実さが表れているといえる。「共感」とは程遠いが人間が描けている傑作だったといえよう。
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