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ビッグ・トレイルのzhenli13のレビュー・感想・評価

ビッグ・トレイル(1930年製作の映画)
4.8
いやもうすごいの何の。最初期の70㎜フィルム撮影はウォルシュ一世一代の作品といっても過言じゃない。もうこれ観たら現代のCG使った作品などオモチャ以下だ。全てのショットでその豊かさに驚き圧倒され、あまりの凄まじさにえ〜〜?!て声出た。フォード『アイアン・ホース』と双璧。
人も馬も牛も、少なく見積もっても半径1kmは演出してる。それらが常にいきいきと闊達に動き回っているのを観てるだけで楽しくわくわくする。開拓民が出発した幌馬車隊列の遥か遠くには、先住民のテントと彼らの馬も見える。ウォルシュ、一体どうやって演出つけたんだ…キャリア初期で既にこんなすごい作品作っちゃって…

ファーストショット、シネマスコープでやや高台から遥か遠くまで広がる開拓民の幌馬車と働く人々の蠢く様子はブリューゲルの絵のよう。主役も脇役も無くその画角にある全てが生きている、生活していることを実感するような豊かさ。70㎜フィルムの映像がとても繊細で深みがあり美しい。汚らしい悪役のタイロン・パワー・Srであってもその汚さが仔細に映されて味わい深い。
ロケーションは難所ばかりで移動ショットも多く、とてつもなく過酷な撮影だったのではと想像されるが、超ロングショットからいわゆるミディアムショットまで被写界深度を巧みに使い分けている。物語進行上そのつど主体となる人物に焦点を当てる際もほとんどが動き回る群衆を背景に入れ込んでいるため、ショット一つひとつが本当にいきいきとしている。
一方でごくまれにあるアップの構図がちょっと不自然に感じたりもした。主役に迫りたいシーンでもせいぜいニーショットくらいまでが良いように思った。序盤での肩越しカットバックの会話シーンもいまいちハマってなくて、そのせいか以後アップのカットバックは出てこない。クライマックスのジーク役タリー・マーシャルのアップはその心理描写として唯一良いなと思った。ジークはジョン・ウェインの相棒で腕利きの爺さん。飄然としてかっこよかった。

何と言っても、高さ100mくらいある断崖絶壁をロープに幌馬車や馬や牛を繋いでじりじり下ろしてゆくシーンが尋常じゃない。多分90°以上の崖もあって、本当に下ろしてるし人間も下りてる。それと一斉に急流の大河を渡るシーン。幌馬車が倒れて流されてるし、深く流れが急なところで牛の大群が流されてるから!絶対何かしら死んでる!『イントレランス』や『ベン・ハー』もだけど、映画のためにここまでやるのかっていう…

物語そのものは壮大なアメリカ開拓民賛美で復讐譚でもある。中間字幕で「男も女も」と讃えられたとおりに、男性も女性も隔たりなく肉体労働を行い銃撃するシーンが出てくる。でも女性はご飯作ったり洗濯したりと余計に仕事してるんだろうなーと想像する。
脇役にいたるまで性格づけもいきいきしている。牛、犬、猫、豚が赤ちゃんに乳をあげてるのが立て続けに出てきて、最後が何かの肉にがっつく人々の姿、人間が食べてる肉を犬が横どりするシーンにつながってて、動物の演出もほんとに巧い。途上に大勢の人が亡くなり、家族らが泣きながら墓を去ったのちに一匹の犬だけが誰もいなくなった墓のひとつにぴったりとくっついて座り込む。このシーンもすごい。

ジョン・ウェイン(若い!)と相棒のタリー・マーシャルは先住民をリスペクトして一緒に生活していたという設定が先駆的で先住民との仲介役にもなるが、結局シャイアン族の襲撃を受けるという展開。結局は先住民にネガティブなイメージを押し付け、当然ながら白人の優位性を覆すことはない。

ラストの信じられないくらい高く巨大な樹々を背景にマルゲリーテ・チャーチルがぽつんと立ち、切り返すと樹々のあいだからまたぽつんとジョン・ウェインが姿を現す。
人も馬も牛も点景で、小さくも闊達に生きる点景として収斂されることを願うかのような画づくりの集大成としても、素晴らしいラストシーンだった。
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