真世紀

「無頼」より 大幹部の真世紀のレビュー・感想・評価

「無頼」より 大幹部(1968年製作の映画)
5.0
日活の渡哲也主演シリーズ第一作。日活時代の主演作「東京流れ者」「紅の流れ星」「野獣を消せ」「新宿アウトローぶっ飛ばせ」が名画座のスクリーンで観たこともあって印象深いが、この無頼シリーズは未見だった。このほど、Amazonプライムで日活作品多数が配信終了ということで、このシリーズをチョイス(なお、シリーズ第三作から最終六作目は配信終了日に一気見という)。

渡が演じるのは人斬り五郎こと藤川五郎(なお、実際にやくざだった原作者の名前が藤田五郎であり、「実録」味を漂わせる)。オープニングクレジットでその幼少期が描かれる。幼い妹と寒空の下、家の中を覗きこむと体を売った男に胸をまさぐられている母親。続く場面はその母親の死に顔。夜、町医者の玄関を叩くもすげなく追い返されて高熱に苦しむ妹をみとる羽目に。先輩との少年院からの脱走と不幸のつるべ打ち。

そして、本編。すっかり、やくざ者として生きている五郎。組には属していないものの、わらじを脱いだ義理のある水原組の組長(水島道太郎)を狙った上野組の殺し屋、少年院時代の先輩・杉山(待田京介)を刺して刑務所へ。

三年後、出所した五郎は水原組組長に出所祝いをもらい、若いチンピラ(浜田光夫、藤竜也)になつかれる一方、目にしたのは自分を待っているはずだった恋人が堅気のサラリーマンに嫁いでいた現実。そして、因縁ある上野組が五郎を狙う。刺した杉山も娑婆に戻ってくる。

この無頼シリーズ全編でヒロインを務めるのが松原智恵子さん。なお、本作と続編では雪子だが、三作目以降では別キャラで登場。一人二役まであったりする。雪子は親の決めた婚約を忌避して田舎から家出してきたところを上野組のチンピラに絡まれていて五郎に助けられ、ベタ惚れとなるお嬢さん。田舎に帰れと諭されても東京に残った松原さん。シリーズを通じて、もう何かと可愛すぎる。

脇キャラでは過去の因縁刺した刺されたの間柄となった先輩・杉山の待田と浜田光夫に比重。

浜田は兄(川地民夫)が上野組にいたり、恋人が高品格の焼き鳥屋の娘(北林早苗)で、堅気の娘とやくざの恋という、渡と松原さんとも重なるモチーフながら、抗争の果てに駅のホームでという印象深いシーンを迎える。

両組の抗争の果てに色々あって、結ばれた松原さん共々、東京を離れるはずが最後は自らの意思で上野組組長(青木義朗)を単身狙う五郎。組長らがいるナイトクラブで青江三奈が「上海帰りのリル」を店のステージで歌いあげる中、匕首を振りかざす五郎と上野組長、組員らの立ち回りがナイトクラブの廊下やら更衣室で展開。流れる音声は青江三奈の歌オンリーという演出。そして、なにぶん凶器がレンジの短い匕首ということもあって、自らも多々返り傷を負った五郎がよろよろと無人の夜の街をさ迷い、思い浮かべる劇中の人々の顔が背景に浮かぶ中での「終」。シリーズ六作のほとんどがこのような最後で、かつての日活の人気シリーズ渡り鳥での小林旭が毎度、ラストでは颯爽と去っていったのとは誠に対照的であります。

義理に縛られる流れ者のやくざ。されど、堅気の娘との一線を引かんとするなど、若い渡哲也の主演看板シリーズとなるのにふさわしい魅力ある作品。前述のようにシリーズを完走する。
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