ルーク大佐

メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬のルーク大佐のレビュー・感想・評価

4.0
20年くらい前の映画だがまったく違和感を抱くこともない、ロードムービーの隠れた良作だ。

トミー・リー・ジョーンズはメキシコ人の親友が射殺されたため、犯人捜しをする。生前親友とは「自分が先に死んだら遺体は故郷ヒメネスに埋めてほしい」という約束を交わしており、その約束を守るため、犯人である新人の国境警備隊員をとっ捕まえて、共に国境の辺鄙な街まで遺体を運ぶ。渇いた砂漠や崖っぷちの難所、ガラガラヘビが住む荒れ地など、この世の地獄のような旅路である。

犯人役のバリー・ペッパーの演技がキマッテいた。
バリー演じる警備隊員がとにかくしょうもないクズ男だ。仕事にはまったくやる気がなく、国境警備の最中にエロ本を広げている。

その一方で、現状への不満解消なのか、不法移民を見つけたら男女お構いなく荒々しく暴力をふるう。美人の奥さんがいるにもかかわらず、日常に生きがいを見いだせず、高校時代に人気者だった栄光にすがっているかのような自堕落な生き方だ。

トミーに誘拐されて遺体を運ぶ際も、自分が犯した罪と真摯に向き合おうとせず、言い訳したり逃亡を図ったりする。そのあたりの浅薄な人間性を妻に見透かされ、結局は見捨てられる孤独な男なのだ。

しかし、過酷な荒れ地を旅する間にメキシコ人に命を救われ、無垢なやさしさにふれるうち、彼の中で何かが変わり始める。今までメキシコ移民を乱雑に扱ってきたことも悔いているのだろう。

旅の最終地に着いたとき、彼は自分の罪を認め、心からの謝罪を遺体にむけて告げる。その演技はなかなか情感がこもっていた。

トミーの演技は表情やセリフのひとつひとつが重く深く、作品のクオリティを上げていく。ところどころクスっと笑えるユーモアもある。

ヒメネスの街とは何の象徴なのか。
トミーは最終地をなぜヒメネスの街と判断したのか。
バリーは妻をはじめ他人に無関心だったが、最後にトミーに放ったセリフが印象的だ。すばらしい出来栄えの脚本だ。
ルーク大佐

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