針

花束みたいな恋をしたの針のレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
3.8
東京に暮らすサブカル好きの男女ふたりの、運命的な出会いからその行く末までを描いた恋愛青春映画。公開当時から話題になってたけど観てなかったのでふと思い立って。確かにこれはある意味強烈な作品でした……。

学生時代に出会った菅田将暉と有村架純の5年間を淡々と描いていく物語自体は(たぶん意図的に?)きわめてベッタベタな東京・若者・ラブストーリー。ではあるんだけど、ふたりの恋愛が映画・演劇・文学・マンガ・音楽・ゲーム・美術展・ネット文化といった、いわゆるサブカル関連のおびただしい固有名詞で彩られてるのが最大の特徴です。このへん、望むと望まないとに関わらず引き籠もりがちなインドア・サブカル野郎に分類されるであろう人間としては(笑)、さすがに完全に他人事として突っ放して観ることができず。自意識過剰なそれぞれのモノローグを挟みつつ、押井守や今村夏子や『宝石の国』などの固有名詞を喜々として口にし合うふたりを見るのが、正直顔から火が出るほど恥ずかしくて、いちいちツッコミながらじゃないとまともに画面を正視できませんでした💐 しかもそれが2015年から2020年という現実の時代設定の中で、その当時の流行に密着した形で展開されてるのがまたね……(まぁ厳密に調べたりはしてないけど)。そのせいで、仮にこの映画について振り返って話すときには必然的に固有名詞に対するオタク語りが要請される作品にもなってるわけで、好き嫌いはともかくとりあえず自分はこの映画の想定している客層のひとりなんだなーという感覚を珍しく明確に味わわされました😆。隅から隅までサブカル趣味が合うひと=運命のひとっていうちょっとメタな設定はおかしくて笑っちゃう。

特別出演している押井守はサブカル男女の仲を取り持つ恋のキューピッドとしての出演で、『天使のたまご』だの『攻殻機動隊』だのと思い合わせると隔世の感がありまさぁね……。あと自分は今村夏子は「こちらあみ子」と「ピクニック」もよかったけど「チズさん」が一番好きだったなー。そんでもって『宝石の国』は2024年でついに完結だし。――などなど、人によって箇所は違うでしょうが、どこかしらにはちょこっと言及したくなるはずで、その気持ちを抑えきれない時点で自分はちょっと負けたなーとは思いました。

さて、冒頭で明示されてる通りふたりはお別れするわけで、同じ趣味で強く結びついた彼らがどうして破局を迎えたのか、その事情が後半で描かれていきます。
上で書いた前半のもろもろも後半の変化も、確かに身につまされるところはあって、ある意味ではかなり楽しんだのですが🤗、好き嫌いで言うとちょっと好きとは言いたくない、この映画の世界の捉え方にもあまり共感したくない、みたいな内なる抵抗感を強く感じる映画でもありました……。
理由はたぶん、自分の中にもあるであろうこの手のイタイタしさをこういう形で受け入れたくないというのと、この映画が語っている物語に素直に感動したくないという、グネグネした感情の結果だと思います。詳しくはコメントに書いときます。

あとは冷静に観れなかった部分がたいへん多いのですが、上のサブカル的な部分への訴えかけを外して見ると、映像作品としてはわりとふつうという感じは正直するかな……。冒頭のイヤホンのくだりからしてオタクの面倒くささを描いたギャグシーンだと思うので(自分は笑いました)、とりあえず完全にピュアな物語として作ってはいない(はず)。個人的には甘ったるくて夢みたいなロマンティックさと、ちょっと残酷で手厳しいユーモアがないまぜになっていて、でも最終的には前者にウェイトを置いてる映画っつう印象だったんだけど実際はさて。

ということで感想自体は複雑なんだけどイヤがオウでも何かしら語りたくなる仕掛けの施された映画ではあって、自分なりに楽しんでしまったという事実はまぁ否定できないなーと。好きじゃないけど面白かったです! 観ててすげー動揺しました🫨。あとはコメントで。
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