彦次郎

サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイスの彦次郎のレビュー・感想・評価

3.5
受話器の取手に目玉がついたみたいな宇宙船で土星から帰還してきたエジプトのファラオみたいな恰好のオッサン(サン・ラー)がアメリカ黒人同胞を移送させようとするSF風思想映画。奇抜な恰好で宇宙就職案内所をやったりとふざけた人物に見えますが観たところでは白人主導の物質金銭優先主義つまり物欲に塗れた差別社会から精神性のある自由な世界へ行こうぜ!というメッセージを伝える真面目な伝道師に思えました。ジャズソウルパワーによる同位体瞬間移動とかよく分からん理論ですが高尚な説教だけでなく美女たちの裸身も出てくる辺りはありがたかったです。本編での白人の扱いを見るに当時の黒人の方々がどのような思いであったかが伺い知れました。
脚本、音楽、主演を務めたサン・ラーなる人物は“彼は生涯にわたって「ラ以外の名前は全て自分とは関係ない」と語り、自身の本来の身元を否定し続けた”(wikipediaより)奇人にしてジャズ作曲家・詩人・思想家と幅広い才能の持ち主です。本作鑑賞後に同名のアルバムも視聴しましたが本編の音楽と併せても深みがあるように感じます(何となくだけど)。
映画の公式サイトでは“音楽は当時の政治的希望、つまり人種的抑圧からの解放を反映した銀河間の兵器。これは映画的で哲学的な若さの源であり、依然として重要な意味を放つ、時代を超えた傑作である。”と大絶賛されておりますが個人的には70年代風の傷んだようなフィルム映像にサン・ラーの思想から当時が偲ばれるドキュメンタリー要素として価値があるように思えました。
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