真田ピロシキ

スキップとローファーの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

スキップとローファー(2023年製作のアニメ)
5.0
最近参加し始めた読書会で原作漫画が課題になり読んだら一気にハマった。私は日本アニメが基本的に嫌いだ。未成年女子を性的消費することに全く悪びれず、まるで現実味のない設定とキャラクターで露悪に耽ることがリアリストとでも言うようなどうしようもない幼稚さ。こんなものが持て囃されているから日本はどうしようもない三流国家に成り下がったと思っている。しかし本作はそういうものとは正反対。

まず上品な物語である。そんな劇的な展開などない。誰かを仰々しく死なせて感動を誘ったりしない。そんなことをしなくてもオープニングを見てるだけで毎回ウルウルしている。ミカちゃんがジャンプしてる辺りで既に涙腺が刺激され、みつみちゃんと志麻くんがダンスしてるところになるともう涙ボロボロのヤバいおじさん化。それは本作の登場人物がとても身近でその考えや行動に共感が抱けるからだ。

能登半島の先端から東京の進学校に上京してきた秀才少女みつみちゃん。主席入学するほど優秀で完璧な将来設計を立てていたが所詮高校生の浅知恵。いとも容易く現実を思い知らされるも、良き人たちとの縁で人間的成長を重ねていく姿。中学時代に人受けする容姿で流されてたら人間関係がギスギスして高校ではキツいキャラをやろうとしていた結月ちゃん。隠キャという型に自分を閉じ込めていた誠ちゃん。小さい頃のコンプレックスを努力して克服したものの自信が持てず肩肘張って無理しているミカちゃん。そして完璧イケメンに見えながら実は確固たる自分を持てず周囲の求める人物像を演じている志摩くん。皆がキャラクターを演じさせられている。枠に閉じ込められている。そんな彼女ら彼らがスクールカーストやタイプの違いを超えて友情を育み自分のままで楽しく過ごせるようになる。学校内だけでなく身体的には男性であるみつみちゃんの叔母ナオちゃんが信頼できる大人として悩めるミカちゃんの相談相手となり、ナオちゃんも驚きはしても奇異の目では見ないミカちゃんの存在は嬉しいもので、まだアニメ化されていないみつみちゃんとの過去エピソードを踏まえるとありのままを肯定されることの大切さを伝えてくれる。脇役まで書き割り感のあるキャラはおらず誰かしらが共感を抱けるところがある。

それと本作の意義深さは女子校生を主人公にしたアニメでありながら美少女ものではないこと。主人公のみつみちゃんや幼なじみのふみちゃん、文芸少女の誠ちゃんは明らかに美少女ではない。しかしこんな野暮ったい女子たちがミカちゃんや結月ちゃんと言ったイケてる子たちに全く遜色せずとても可愛い。それは前段でも書いたように書き割り感がなく各々に個性があるためで、この魅力は髪型と色が違うだけで同じ顔の美少女には絶対出せないもの。それと超イケメンの志摩くんも顔以上に故郷の過疎を救うため官僚を目指すみつみちゃんの照れ隠しな抱負を聞いたら全く茶化さず褒めてて、冷笑すれば賢いと思っているクソバカどもの溢れるヘルジャパンでは眩しい本物の中身もイケメン。映像作品に置けるルッキズムは難しい問題だが、本作はテーマ曲で歌われているように見せかけの美しさは一つもいらないと証明できている。

日常に立脚した物語らしく声優の演技もわざとらしく作った声の過剰な演技ではなくて、とても繊細な感情の機微を表現されており聞き応えがある。『サイバーパンクエッジランナーズ』のレベッカや『ゆるキャン』の綾乃でしか知らなかった黒沢ともよがこんなに上手な人だとは知らなかった。1番はナオちゃんの斎賀みつきで場合によっては男性ジェンダーを用いなくてはいけない役を声色だけでなく演技も微妙に表していて、キャラクターの実在感を増す。このアニメは声優に取っても非常にやり甲斐のある作品であるだろう。せっかく声優になったのに毎回同じような演技したくないでしょ。

日本アニメ嫌いな上に昨今の忠実なだけのアニメ化にも否定的なのにそんなの問題ないとばかりに大ハマりできた。それでもどうしても気になるのは今年の元旦に起きた能登の地震で、完全に見捨ててる腐れ無能政府のムーブを権力追随ネトウヨが「能登なんて僻地に金かけるなんて無駄だから引っ越せ」なんて血も涙もないことを抜かしてやがってて、それでネトウヨとオタクを兼任してる人は多いので本作好きな人も平気でそんなこと言ってんじゃないかなと思えてならない。みつみちゃんが言ってる能登への思いはただの背景じゃなくて本気なんよ。1話のとっくに廃線になった鉄道も実話で。フィクションに現実を持ち込むなよ!なんて態度で消費せず真剣に作者の考えを汲んでほしい。そうでなければこの綺羅星の物語も都会のスモッグで隠れてしまうだけだ。