ケーティー

恋はDeepにのケーティーのレビュー・感想・評価

恋はDeepに(2021年製作のドラマ)
1.0
人魚の設定を生かし切れていない
いまいちなタイトルからもわかる企画のポイントの曖昧さ
詰まるところ、脚本が拙い


本作の最大の問題は、人物の描写の拙さだろう。俳優陣から早い段階で脚本にクレームがあったと報道されているが、1話の時点で見せるべき、主人公たちの魅力や芝居の見せ場が設定できていない。ただでさえ、人魚というトンデモ設定なのだから、視聴者がもっと観たいと思わせる人物の魅力を見せるシーンを初めに脚本が作っていないと、俳優としても演じようがなく、気の毒だと感じた。

そもそも本作の脚本家は、これまで「おっさんずラブ」や「隣のナギサさん」など、特異な設定と俳優の組み合わせの妙で当ててきた。そういう意味では、今回の"人魚"という設定もその路線を踏襲しているが、"人魚"×"美人女優"という組み合わせ自体には、前述した2作のような意外性はない。(大森南朋さんが家政婦を演じた組み合わせの妙みたいなものがない)そうすると、いよいよ脚本がいかに意外性のある切り口で面白さを設定し、人魚をどう魅力的に描くかが重要になるのだが、それが本作は出来ていなかった。そもそも前述した2作も、脚本の描写というよりも、それぞれの作品で、個性的な俳優が演技を爆発させて、芝居の面白さで、脚本の描写の拙さやセリフの物足りなさをカバーしていたともいえる。

批判ばかりが先行してしまったのでフォローしておくと、序盤はたしかに家のことを巣と言ったり、亀をおじさんと表現する人魚ならではのコメディ-設定があり、そこは確かに面白かった。しかし、途中から、人魚だから身体が弱いという突然難病テイストに変わり、主人公の言動もいつの間にか普通の女性になってしまったのである……。

また、主人公たちvsマスコミという対立軸もよくない。どうしても切迫感に欠ける。例えば、ベタではあるが、主人公を保護した博士が実は主人公を研究材料にしたいと考えている悪役で、博士から守るために二人が一緒に暮らし始める方が、より話に切迫感が出たのではないか。敵は、マスコミや世間といった一般的なものより、身近に置いたほうが話に緊迫感が出て、視聴者も感情移入しやすいはずだ。また、人魚ゆえに問題が起こるというストーリー設定にしたほうがよい。(経歴詐称であれば、人魚設定でなくてもよい)

また、そもそも博士の人物設定も浅く、お人好しだから、人魚を保護し経歴詐称に加担したとなっているが、リアリティーがなさすぎるだろう。普通に考えれば、もし学者が人魚に出会えば、学術的興奮を感じずにはいないはずである。しかし、そうした感情は無視されている。メインに人魚という大嘘の設定をもってきている以上、それぞれの人物のリアリティ-とそこから来る魅力づくりはより重要なわけで、あり得ない設定にあり得ない設定を掛け合わせているので、視聴者は感情移入できない。また、人魚というトンデモ設定の中でも、視聴者の身近な問題や悩みと似たものを主人公が抱えていることを見せることで、視聴者が共感したり応援したくなる仕組みづくりが必要なのだが、それが出来ていない。
素材、キャスト、演出や音楽がよいだけに脚本の拙さが惜しまれる。


補足:鹿賀丈史さん演じるお父さんが、明かすまではいかないにしても、過去に人魚と会ったことを最終回などで匂わせると終盤いいシーンになったかもしれない。

補足2:人間以外という設定の面白さなら、多部未華子さんが鹿を演じた「鹿男あをによし」が上手かったし、学者と環境問題を恋愛に絡めて描くという意味では「不機嫌なジーン」という傑作のよさを改めて思い出した。