藍色

君、花海棠の紅にあらずの藍色のレビュー・感想・評価

君、花海棠の紅にあらず(2020年製作のドラマ)
4.0
WOWOWの配信が7月末までと知り1週間で一気に見た。
原作小説を途中まで有志翻訳されてる方がいて、それを読んで続きが気になり、原作小説を中国語から自分で翻訳するよりはドラマを見てみよう!と思い立った。先に小説で予習していたので、登場人物は多かったけど誰が誰?にならなくて良かった。

ただ、原作小説とドラマはキャラクターの役回りが結構違っていて、やっぱり別物として見たほうがいいと思った。(原作では、范涟はあんなにクズじゃない…程凤台の尻拭い役もしてくれるし。程凤台はプレイボーイで、母親への追想もあんまりない。二奶奶は典型的な旧時代の女性で商才もない。商细蕊は16-20歳くらい。水云楼は困窮してない。曾爱玉は商细蕊の妹じゃない、などなど)

民国時代〜日本占領時代の中国を、セピア色がかった絵で撮ってるのがすごく綺麗。貧しい人たちの服装と、お金持ちの服装の描き方の違いとか、当時は実際にこんなだったんだろうなって想像できるような描き方をされてる。

終盤は抗日ものになるっぽかったので、どんな描かれたかたするんだろうと思ったけど、登場する日本軍の残虐行為は実際に史実でやってるし…なことばかりだったので、そりゃそう描くよねと思って違和感なく見れた。

察察儿がいるかもしれないと思って迎えに行った女学生たちとか、二爷がゆすられて買い取らなければ慰安所行きだったでしょ…と思うと上海の二爷の紡績工場で働くことになって本当よかった。

察察儿は延安の共産党に入ったまま帰ってこなかったし、商细蕊は延安の共産党の義兄に戦闘機が買えるほどのお金を渡してるのは、今の中国政府へのヨイショを感じてしまった。

けど第二次世界大戦後も中国の内戦は続くし、文化革命時代には京劇は堕落の象徴として弾圧されるんだよな…と思うと辛くなる。

察察儿が兄を責めるシーンの、若さに任せた苛烈さは人気小説「三体」冒頭の紅衛兵を連想するなと思ってた。延安に行って共産党員になった察察儿はいずれ、共産党内の内部抗争を目にするだろうし、裕福な家柄の出であることを若き紅衛兵に詰め寄られ、かつて兄に言われた「16歳がなんだ。最も若くて愚かな時だ。白と黒しかないと思い込み断罪しようとしてる」を思い出すんだろうか…とか想像しちゃうね。

程凤台と商细蕊の「知音」の関係が良い!商细蕊を見つめる目に、「二爷」と呼ぶ声に愛情を感じる。

原作はBLだけど、ドラマでは知己エンドだろうな〜って言うのは、序盤から程凤台と二奶奶の夫婦の愛情をしっかり描いてる時点で感じてたけど、人と人とを繋ぐ愛情はなにも男女の恋愛だけではないからね。

「二爷は商细蕊のために荷を運んだし、商细蕊は二爷のために喉を痛めるまで歌った」

という、自分にとって一番大事なものよりも相手が大切…という関係性はほんと素敵だ。

商细蕊は小周子に水云楼の印鑑を渡したし、日本軍には相変わらず目をつけられてるし、二爷と一緒に香港に行ってほしかったな…という思いが結構ある。

けど、北京は京劇にとって重要な地だし、商细蕊は程凤台に「私も英雄だ」と言っていた通り、京劇の発展と存続のために命をかけてる人だから。程凤台という唯一無二の知音が安全な地に行ったことへの安心を胸に、北京に留まり続けるのかもしれない。でもこの後、京劇にとっては逆風の時代が続くから…とにかく商细蕊には元気で生きていてほしい。いつまでも、劇に秀でた天才でそれでいて子供のように自由に生きていてほしい…
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