りょう

渇水のりょうのレビュー・感想・評価

渇水(2023年製作の映画)
4.2
 日本の上水道は、そのまま飲料水として利用できる世界でも稀な公共事業です。生存権にも関わるので、使用料金を滞納してもなかなか停水されません。ただ、上水の加工には多額の経費が投入されているので、太陽や空気と一緒にタダにはできません。そんな上水道があるので、自分はコンビニでミネラルウォーターなんか買いません。
 すでに水道事業を民営化してしまった地方自治体もありますが、生存権を企業に“人質”みたいにされるので、とても危険なことです。そういう近未来的な映画があっても不思議ではありませんが、停水執行という究極の場面を描いた映画もこれまでありそうでなかったので、とても興味深かったです。
 原作があるので、あまり改変できなかったのかもしれませんが、少し育児放棄のテーマが強調されすぎていた印象です。公務員である水道局の職員が発見すれば、すぐに児童相談所に通報されるはずなので、そこにリアリティがなくて残念です。
 自分の家庭の問題と停水執行に苦悩する岩切が最後に精神崩壊して、とんでもない“テロ”を強行するバッドエンドを期待しましたが、こういう結末も悪くなかったです。公務員は、マジメに仕事するほど市民に嫌われることもありますが、誰かを可哀そうだと思ってルールを破ると他の市民の不利益になるので、いつもジレンマばかりです。自分はそれもあって公務員を辞めました。岩切の気持ちはわからないこともありません。
 俳優陣は、生田斗真さんや門脇麦さんは相変わらずうまい(どちらも生気がない)し、磯村勇斗さんは若い水道局の職員というポジションも含めて絶妙です。彼の恋人がワンシーンだけ登場しますが、彼女を演じた佐藤美希さんがとても素敵でした。すでに芸能界を引退しているようで残念ですが、あの雰囲気は少し浮いてました(いい意味で)。
 もっと真夏のジリジリ感が映像で表現されていればよかったし、生命の危機をイメージさせるシーンも欲しかったテーマですが、高橋正弥監督は新人のようなので、これからに期待したくなるような秀作でした。
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