幽斎

ザ・ディープ・ハウスの幽斎のレビュー・感想・評価

ザ・ディープ・ハウス(2021年製作の映画)
4.0
「屋敷女」「レザーフェイス 悪魔のいけにえ」Alexandre BustilloとJulien Maury監督コンビが、不穏な湖底に沈んだ屋敷へ潜る新感覚オーシャン・オカルトスリラー。和風のイオン京都桂川で鑑賞。

ギリギリ海洋シーズンに間に合いました(笑)。「ハイテンション」Alexandre Aja、「フロンティア」Xavier Gens、「マーターズ」Pascal Rogéと並ぶ「フレンチホラー四天王」Alexandre BustilloとJulien Maury監督だが、「リヴィッド」「恐怖ノ白魔人」共に微妙な案件。「屋敷女」遺産を食い潰して終わりと思ったら、レビュー済「呪術召喚/カンディシャ」息を吹き返した。世間的な評価は低いレビュー済「インサイド」も含め、四天王の中で一番長生きするのは彼等かもしれない。

「スパルタン 皆殺しの戦場」フランスを代表するモデルCamille Rowe、レビュー済「アウトポスト」チョイ役のJames Jagger。やはりMickと顔がソックリ(笑)。本作は純フランス産Apollo Films制作。英国マンチェスターのホラー映画の祭典Grimmfestでクリエイティブ賞。ソレを見た皆大好きBlumhouseが「その映画買った!」北米配給権をハリウッドの名門MGM傘下Epixと買収。意外なのは日本のイオンシネマも資本参加。

水中ホラーと言えば、ゾンビ・マイスターGeorge A. Romero監督「ランド・オブ・ザ・デッド」。ホラーに詳しい友人は「おいおい、Lucio Fulciのサンゲリアを忘れちゃ困るよ」。元ネタは1981年「ナチス・ゾンビ/吸血機甲師団」らしい。試しに見せて貰ったが、女の子のオッパイしか記憶に残らない。私的にはイタリアンの巨匠Dario Argento監督「インフェルノ」、原作は「深き淵よりの嘆息」英国ロマン派の名文家De Quinceyの傑作をモチーフ、水中シーンは今見ても秀逸。元ネタは叩けば埃の様に出る(笑)。

フレンチホラーの開店休業問題。アメリカは世界で最もホラーに理解のある国、低予算で優秀な人材が発掘できればハリウッド全体が栄えると言うメソッド。Steven Spielbergも「サメ映画」出身。だが、映画発祥の地フランスはホラーのランクは「下の下の下」。水中映画と言えばオスカー作品「シェイプ・オブ・ウォーター」最新のグリーンスクリーンで撮影。監督は資金を捻出できず、幅20m深さ9mの水槽に家を格子状に製作、一階ずつ沈めて撮影するアイデアで乗り切る。監督は水槽の中に入る事が出来ず、6台のモニターで指示。作品より制作裏話の方が面白そう(笑)。Blu-rayのメイキング映像は必見。

代表作「屋敷女」胸糞を心理的に極限まで高めた事がウケた。つまり、沸点を超える沸点は無い訳で過剰のエスカレーションは早々に破綻する。監督はハリウッド的な意味の有る怖さより、おフランスらしい「奇妙」なテイスティングを求めた。水中ゴシックを再現する心意気は、絵画のシュルレアリスムを想起。監督は観客を水中と言う「沼」入れてせせら笑う。北米で公開された際、ラストの結末に観客が腹を立て大声で怒鳴った事がX(Twitter)を賑わせたが、監督の陽動にマンマと引っ掛かった方はご愁傷さま。

私は沖縄のツアーを利用してダイビング・ライセンス「Cカード」取得。京都に居る間にeラーニングで学科、スキルを練習するプール講習の後、海洋で実技を経てOWオープン・ウォーター・ダイバー。水深18mまで潜れますが、私から見れば本作は「減圧」を全く無視。潜水時間60分で100ftの水深では約90分の減圧が必要。一気に浮上すると、動脈ガス塞栓と肺ガス塞栓症で窒息する可能性が有る。映画なので構いませんが、本当の海洋では全く参考に為りませんのでご注意を。

秀逸なのは水中ドローンの視点。4Kで画質も良いが最近のYouTuberは羽振りが良いのか?、アレなら最低でも50万円するけど。人間2人だけでは視界も限られるし周りの様子も伝わり難い。POVを第三者視点で使う事で、観客は安心して作品の世界に没入出来る。ソナーを使う事で動態検知も可能、何も無いのに反応する事で、心霊現象を演出するのは地味に斬新。感知すると赤いライトも光る。本作の最優秀男優賞はトムで決まり(笑)。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

謎を解く鍵は「キリスト教」。私は元クリスチャンですが、キリスト像が地下室の扉を隠す。霊廟はキリストの復活。ダイビングのエクイップメントに「逆さ十字」分かる人には此処で考察終了(笑)。十字架は交差する2本の鍵で天国。殉教を意味する聖ペトロ。逆さにすると「悪魔崇拝」オカルト・ホラーの最高傑作「エクソシスト」にも登場。ピエールも「十字は天使と悪魔、永遠の眠りは死ではない」明確に台詞で伏線も貼られてる。地下室で鎖で吊るされた両親の姿は、十字架に掛けたキリストと同じポーズ。

地下室のPentagram「五芒星」は、キリスト的には悪魔崇拝が行える生贄の力で儀式をコンプリート。水中に沈んでも悪魔崇拝の力は衰えず、封印と言う仕掛けで屋敷内のコンディションが良かったと言う、別の伏線も回収。封印の際「入る者は拒まず出る者は死に至る」呪いを掛けた。悪霊が有機体として心理的に脅かす最終目的は「人の魂を奪う」。

悪魔崇拝とは統一教会と同質。悪魔を召喚する理由は「自らが偉大な世界の一部に成る」。レビュー済「死霊館 悪魔のせいなら、無罪」語られた通り「モンティニャック家」カルト教団のシンパサイザー。ティナが浴槽で息を止めるシーンがラストで伏線として回収され幕を閉じる。「偉大な存在に成れば周りの者は服従する」ソレは不老不死に繋がる。宗教の根本は死への恐れ、死後の世界。なぜ、ピエールは生贄を捧げるのか、なぜ、生き残りなのに平然と街で暮らせるのか?。少しは自分で考えましょう(笑)。彼は今後も歳を取らないだろうが、本作には後日談の可能性が残されてる。

ピエールは水中ドローンの事は知らない様に描かれた。ドローンは使用者が圏外から外れると自動的に浮上して緊急通報するGPS機能を搭載したモデルが有る、トムに証拠映像がタップリ記録されてる。2人の死後にトムが代わりにピエールに敵討ちを喰らわす事は有り得る、と思えばスッキリしません?(笑)。

ハウス・スリラーの傑作「家」水中版。生贄に為った彼らにも復讐するチャンス有り!。
幽斎

幽斎