幽斎

ミリオン・マイルズ・アウェイ 遠き宇宙への旅路の幽斎のレビュー・感想・評価

4.4
【Amazonスタジオ作品シリーズ】原題「A Million Miles Away」100万マイルの彼方へ。昭和っぽい良い翻訳。何が遠き宇宙への旅路だよ(笑)。AmazonPrimeで0円鑑賞。

Hollywoodでも№1の名門MGM Metro-Goldwyn-Mayerを買収したAmazon MGMスタジオ制作。メキシコ移民のJosé Moreno HernándezがNASAに採用された宇宙飛行士の実話を映画化。「グッドワイフ」Alejandra Marquez Abella監督もメキシコ人。

長いのでホセと訳すが、彼は奨学金でパシフィック大学の理学士号を取得。ローレンス・リバモア国立研究所に入所、デジタル マンモグラフィの開発に携わり乳癌の早期発見に貢献。乳がん検診の時は彼を思い出そう(笑)。NASAに11回落ち12回目で、ジョンソン宇宙センターに配属、コロンビア号の空中分解事故の事故調査チームに参加。ミッションスペシャリスト(搭乗運用技術者)選ばれ、スペースシャトル ディスカバリー号で2009年8月28日、国際宇宙ステーションISSに補給物資を運んだ。

本作はホセの自伝「From Farm Worker To Astronaut」他二冊を基に、同じメキシコ移民で皆大好きMichael Peñaが演じる。Peñaの家族がソウで有る様に、アメリカで移民が槍玉に上げられる一方、色んな産業を支える縁の下の力持ち的な、貴重な労働力。日本も「特定技能」の名で在留資格を与え、日本人が嫌がる職種に多くの方が従事してる。

移民が増えれば犯罪が増えると言われる。窃盗やレイプ等、怪しからんニュースは目に付き易い。川口市のクルド人問題は良く取り上げられますが、生活習慣の違いで市民から苦情も多い。問題は仮放免制度の実態との乖離。深刻な人手不足でクルド人が居なければ成り立たない。日本の入管は「難民ではないので帰れる」、クルド人は「危険だから帰れない」。日本人は「移民と難民の違い」一から改める必要も有る。国が在留資格を認めてるのにヤフコメで「だったら来るな!」と言う方、気は確かでしょうか?。

偏見が渦巻く世の中に希望を与えるのが映画の役目。移民の問題は素直に伝え、希望が持てる作品は必要。お花畑でハッピーエンドのディズニーも結構、本作は人種差別なテーマを積極的に取り上げるMGMスタジオ。アフリカ系のサクセスは一般的でも、ラテン系は珍しく、しかも宇宙飛行士。ホセの半生はド直球な王道ストーリー、「オデッセイ」宇宙飛行士を演じたPeñaと言うキャスティングも気が利いてる。観る前から良作が保証され、貴方も安心して宇宙へ旅立てる。私のレビューでは珍しく家族全員で楽しめる(笑)。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

ホセの自伝の一部をKindle版で読んだが、メキシコからアメリカに移住と思ってました。が、カリフォルニア州を往復して暮らした。農業だから収穫の度に各地を転々、文字通りの移民。「農地から宇宙へ」放送が再開した「プロジェクトX」顔負けのアメリカン ドリーム、移民と言うバックグラウンドは、台詞で「未知の世界に飛び込むのに移民より適切な者は居ない」未知の土地への移動が役立つ。秀逸なのは黒人が宇宙飛行士の場合、大抵は軍人かパイロット。Toxic Masculinityを強調するが、ソコは洒脱なMGMスタジオ。腕力では無くサイエンスの力で、心地良い感動へ誘ってくれる。

ヒスパニック系アメリカ人初の宇宙飛行士はホセでは無い。既にコスタリカ系アメリカ人Franklin Chang-Diaz、物理学者。7度のスペースシャトルのミッションは、最多宇宙飛行タイ記録。ホセの良き理解者Kalpana Chawlaも実在の人物。インド出身の女性初の宇宙飛行士。彼女がホセのメンタリストの役目を果たし、有色人種としてマイノリティのバトンを上手くホセに繋いだ。彼女はスペースシャトル コロンビアの空中分解事故で死亡。本作はアメリカで高評価なので、次は彼女の映画も観てみたい。

ホセは宇宙飛行士の前は台詞でチラッと語るが「スターウォーズ計画」SDI戦略防衛構想に参加。ソ連をターゲットにキラー衛星と呼ばれるレーザー兵器で、敵の衛星やロケットを破壊。当時は配備される事は無く外交上のハッタリだが、コレが引き金と為りソ連は軍拡を諦め、Mikhail Gorbachev大統領を担ぎ出し冷戦は終結。ソ連は稼働するキラー衛星を既に打ち上げてた事が後に判明する。元俳優のRonald Reagan大統領の見事な演技力(笑)。現在はアメリカとロシアのキラー衛星が宇宙で睨み合いを続けてる。

映画的には王道でサムシングな目新しさは無い。ラテン系らしくハイテクより家族中心の描き方。Tierra Lunaは家族経営、ホセも仕事がオフの時は店で働いた、宇宙飛行士が洗った皿も見てみたい。トルティーヤは私も好きで、メキシコを代表する国民食。トルティーヤは皮の名前、タコスやブリトーは料理の名前。、私はチェダーチーズとウインナーを巻いたトルティーヤドッグを作って食べてます。大気フィルターを詰まらせるパン粉が出ない為、NASAでも重宝。ホセはISSで宇宙食のブリトーを美味しそうに食べたとか。Tierra LunaはNASAを退職後、カリフォルニア州ローダイに引っ越して閉店。本人のスタジオ訪問は、MGMの粋な計らい。撮影最終日に登場してスタッフは大いに盛り上がったとか。エンドロールでPeñaと本人の記念写真も登場、意外と良い男(笑)。

七転び八起き為らぬ11転び12起き。インプレッシヴなのは、環境では無く「教育」子供の夢を理解する先生の存在が、ホセを宇宙飛行士に導いたと言っても過言で無い。Young先生も実在の人物、自分の才能を信じてくれた恩師。ホセを支える妻と家族。自分の境遇を嘆いて努力しない人は大勢居る。人の性にして殻に閉じ籠るのではなく、素敵な人との出逢いの大切さを映画を通じて改めて噛み締めた。

移民だから宇宙でもリラックス出来るのは正に真理。良い話は星の数ほど有って良い。
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