幽斎

バッド・デイ・ドライブの幽斎のレビュー・感想・評価

バッド・デイ・ドライブ(2023年製作の映画)
3.8
恒例のシリーズ時系列
2015年 4.2 El desconocido オリジナル、スペイン映画
2018年 4.0 Steig. Nicht. Aus! リメイク、ドイツ映画、レビュー済
2021年  Balsinjehan 
2023年 3.8 Retribution 本作、多国籍映画、3度目のリメイク

Filmarksのコメント欄が妙に少ない事に妙に納得。思い出しましたけど本作は公開の劇場数が超絶に少なく、Liam Neesonのネームバリューを考えても、北米初公開初週で8位と撃沈。ソレを見て配給のキノフィルムズのやる気の無さか支配人の弱腰か、まぁ妥当な判断かも知れん、知らんけど(笑)。Tジョイ京都で鑑賞。

オリジナルは2015年に作られたスペイン映画「暴走車 ランナウェイ・カー」。真っ先にリメイク権を獲得したハリウッドだがソレは後述。先を越されたドイツ映画「タイムリミット」リメイクとは思えないスプレンディドな仕上がりで、スタイリッシュな映像美が秀逸な本家スペインに勝るとも劣らない佳作スリラーなので、地味にお薦め。

当初からLiam Neeson抜擢と「タイムリミット」レビューで触れたが、COVIDの直撃を喰らいハリウッドのWarner Bros.は早々に撤退、その後、独立系スタジオで制作する筈が公開の見通しが立たず借金返済の為に権利はイギリスのスタジオへ。しかし、アメリカ以上に厳しいロックダウンで八方塞がり。フランスの制作会社が名乗りを上げ、改めてアメリカのスタッフが招集され完成。公開前から壊れた車の様にボロボロ。

スペイン、ドイツ、イギリス、フランス、アメリカ共同製作。撮影は「タイムリミット」同じドイツのベルリン。何度も監督と脚本が入れ替り立ち代わりする間に、作品の中身はお年寄りが作る煎餅の様にドンドン薄味に為った、と観ればスグに分かる。「暴走車 ランナウェイ・カー」or「タイムリミット」観た方は「何でコウ為るの?」疑問しか沸かない。プロットは同じでも、コウもスライディングが過ぎる作品も中々お目に掛かれない。先ずは作品に出演した主演を慰めておこう(笑)。

Liam Neeson 71歳!。私のフェイバリットは「ダークマン」。全てレビュー済「スノー・ロワイヤル」「ファイナル・プラン」「アイス・ロード」「マークスマン」「ブラックライト」「MEMORY メモリー」云われる前に言いますけど、良く観てますね(笑)。最近の彼の作品に共通して言えるのは、作品が気に入ったから出演と言うより、何十年も前に最愛の妻Natasha Richardsonを事故で亡くしてから、孤独な独り住まいの家に帰るより、馬車馬の様に働いてる方が心が休まるのかもしれない。本作のネクストも既に7作品が待機中。希少な演技派なので身体だけは大切にして欲しい。

Nimród Antal監督の演出はソンなに悪くない。評判悪いらしいけど「プレデターズ」結構気に入ってる作品で、演技派で名高いAdrien Brodyを、アンな感じで撮れるのは一種の才能だと思う。駄作に転落させたのは脚本Christopher Salmanpour←お巡りさん、犯人はコイツです(笑)。映画初挑戦の奴に何で書かせたのか、元締めフランスのStudioCanalの言い訳が聞きたい。アメリカでも酷評の嵐「Not A Single Piece Of The Film Makes Any Sense」京都人も顔負けの辛辣振り。アクションでは無くサイコロジカル、心理戦で運転席を立てば爆発と言うワンイシューだけでは91分でも長過ぎる。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

動く車を人質と言えば私の大好きなKeanu Reevesの出世作「スピード」。元ネタは航空会社の旅客機が高度〇〇メートルより低く飛べば爆発、実際に起きたテロ事件を基に作られた。プラスティック爆弾を車に積めば僅かな衝突でも木っ端微塵。息子の彼女がアレした時に全員吹っ飛んでる筈。此の時点でトランクに爆弾が無い事は分かるので子供は簡単に降ろす事が出来た。大層立派なメルセデスのSUVなら欄干を簡単に破壊して川に転落する筈。ダイソーで売ってるザルの様に何から何まで穴だらけ。

私はミステリーが専門だがソノ基準では限りなく「0点」に近い。最初のクエスチョンは「犯人は誰なのか?」ミステリーの定石では、登場人物の中に居なければ為らない。ヒントは後述する囚人のジレンマだが、ミスリードでアリバイを造ったつもりだろうが、私の目はダイソーのザルでは無い。家族を誘拐して身代金を要求した方がスマート、私ならソウする。犯人がなぜ座席に座る?、爆弾が有る事を知らないのか?(笑)。地下トンネルに入るとスマホは圏外。起爆装置が携帯なので車を止めて警察に事情を説明すれば速やかに解決した筈。映画だから許されるが、小説なら返本の嵐だろう。

オリジナルのプロットが何故国籍を跨いで何度もリメイクされるのか?。ソレはアメリカの政治学者Robert Axelrodの理論で有名な「Prisoners' dilemma」囚人のジレンマ、を上手く映像化したから。お互い協力する方が協力しないより良い結果に成る事が分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなる。分かり易い例えはスーパーの値下げ競争、近隣の全ての店が談合すれば値下げしなくて済む。金融に置き換えれば相手が裏切れば将来の取引も止めると脅しを掛ける事で裏切りを阻止する。

褒めるファクターは、囚人のジレンマが実体化した事件をベースに組み立てられた。私も少額の株取引をしてるが、クレディ スイスに約100億$の損失を齎し、1000億$を超える時価総額が消失したヘッジファンドのレバレッジ取引は、Archegos Capitalが個人資産を運用する「ファミリーオフィス」、正にNeesonの仕事とリンクする。日本の野村ホールディングスの米国子会社も多額の損失を被ったのでご存じの方も居るだろう。ドバイの秘密口座と聞いて、本作への評価もレバレッジ(笑)。

柔らかい「スピード」評される本作だが、Neeson Magicだけでは流石に暖簾に腕押し。
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