水

すずめの戸締まりの水のネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

偶然にも能登半島地震が起きた数時間後に視聴した。偶然にも。
観るべき日に観れたと思う。
メディアで助けを求める人がたくさんいることを知った。
彼らも少し前までわたしと同じようにおせちを食べたり、テレビを観たりして、家族で団欒していたのだろうと思うと、あまりにも悲しくて、恐ろしくて、あまりにもわたしは無力だ。
どうか誰も死なないでと被災地の顔も知らない人々の言葉を呼吸を生活を思い浮かべる。祈りのように。

新海誠は「君の名は。」から切実に自然災害に向き合っている監督だけど、今作はその中でも特に日本人の心の奥底に根付いているであろう地震をテーマにしている。
今作の中で、新海誠が出した一つの答えとしては祈るしかないなんだろうなと思った。
地震とは意思を持たないもので、人の力ではやっぱりどうにもならないのだと思う。
だから、今は廃墟となってしまった土地に染み付いている生活を想いを忘れないでいようと思う。
まだ心の傷が癒えない人には、いつか過去の自分を救ってあげようと訴えかける作品だった。
すべて失っても、光だけは失ってはならない。
今ここにある生活が、人が、街がどんなに尊いものかわかった。
地震は今すぐにでもわたしのすべてを奪えるのだ。

すずめの涙がそのまま「ごくわずかしかない」ということを形容することが、すずめの涙なんてみみずには届かないし、止まらないということを表しているようで人の無力さを感じる。

「あなたは光の中で大人になっていく」
すずめが過去のすずめにかけたこの言葉が特に心に残っている。
光は草太さんで、たまきさんで、すずめの住んでいる街で、その街の人々で、記憶の中のお母さんである。

「死ぬのが怖くないのか」って訊かれて、間髪入れず「怖くない!」って言っていたすずめが「死ぬのは怖いよ」って言っているのを聞いて胸がいっぱいになった。
草太さんに出会って失いたくないものができたのと、死ぬということがどういうことか理解できたからだと思う。

「君の名は。」と「天気の子」に比べると男女の愛より、親子の愛を主軸として展開されるストーリーだった。
草太さんは母のような言動をするし、母の形見の姿だし。
すずめとすずめの母はもちろんすずめとたまきさんは親子愛だけれど、すずめと草太さんですら若干の親子愛的な愛を含むと感じた。

人が太刀打ちできない自然災害から、人を救うのは人の暖かさだと切に感じた。

女の子のすずめが男の子の草太さんに「きれい」って一目惚れするの今風だと思った。
新海誠監督、すごく現代の監督だなと感じるところが多かった。

毎年3.11に被災地に歌を捧げていたRADWIMPSの音楽からも祈りを感じられてよかった。

「命がかりそめだとは知っています!死は常に隣にあると分かっています!それでもいま一年、いま一日、いまもう一時だけでも私たちは永らえたい!」
このセリフを忘れず生きます。

これを読んでくださった方の中に被災された方がいたのなら伝えたいです。
絶望に身を任せないでください。
どうか、光の中にいてください。
水