レインウォッチャー

ダイナソーJr./フリークシーンのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

3.5
もしあなたが交際とか、もしかしたら結婚なんかを申し込まれてるとして、その相手にまず尋ねるべき質問はたった一つだ。
すなわち、「90年代を代表するバンドといえば?」。

「ニルヴァーナ」?残念ながらやめておいたほうがいい。
自己愛が強すぎて、良くてヒモ、悪けりゃDVだ。

「オアシス」?論外である。
飲み歩くばっかりで家庭には寄り付かないことだろう。

じゃあ一体、正解は何だというのか。ここに教えたい。

「ダイナソーJr」。

ダイナソーJrだ。ダイナソーJrを選ぶヤツだけが信用できる。
そりゃあひょっとするとたまに、風呂に入らなかったりとか…家賃を払い忘れたりとか…するかもしれないけれど。

このドキュメンタリーを観れば、きっとそれがお分かりいただけるだろうと思う。
正直なところ映画作品としてはあまり尖ったようなところはなく、彼らの現在とバンド半生をスライドショー的に振り返るオーソドックスな作り。とはいえフロントマンであるJ・マスシス以外のメンバーにもちゃんとフェアに光が当てられているのは好印象だし、結成当初の珍しそうなフッテージもある。彼らが叩き出す空を突き崩さんとする轟音に、照れ隠しのように二重三重になって包まれた甘く碧いメロディが、時間いっぱいバイオレットとライムグリーンに彩られ、まぶたの裏でスパークする。

彼らはひどいケンカ別れをした時期もあったが、紆余曲折の末オリジナルメンバーの3人が集結('05年)し、現在まで続いている。「友人というよりは家族、ただし機能不全のね」と語るマスシス。
観ていて気づくのは、彼らが音楽を続ける理由だ。彼らは一度たりとも、俺のこんな感情を表現したい、だとか、社会にこんなメッセージを届けたい、といったことを言わない。ただひたすら「音楽そのもののために」やっている。

演奏が楽しいって発想はなかった、なんて発言まであるし、外に派閥を広げるような活動にもあまり興味がなかったらしい。しかし現在では先輩・後輩・同期、彼らに影響を受けた様々なミュージシャンたちに支えられてステージに立っている。
その姿は思いのほかぐっとくるものがあるし、ケヴィン・シールズ(マイブラ)やフランク・ブラック(ピクシーズ)といった、オルタナ通過ボーイズ&ガールズには堪らないメンツがいかにも嬉しそうにダイナソーについて語っているのを見ると、単純に笑みがこぼれる。

エレキギターをアンプに繋いだことがあれば、誰もが一度はもつだろうピュアでアホな疑問…「これ100台に増やしたら100倍すげー音出るのかな?」を、奇跡的なほど純度を失わないまま、3ピースというストイックな密室で研ぎ澄ましたバンド、ダイナソーJr。
今作のラストに流れるのは、そんな彼らがある理由から一時期「演奏を避けていた」と語る楽曲だ。その意味を知るとき、彼らがいま悪くない関係性にあって、何より現在進行形のバンドであることを信じ、祝福することができる。