メンターム

TAR/ターのメンタームのネタバレレビュー・内容・結末

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

稀代の指揮者、かつ女性(同性愛者、パワフル、逆境に打ち勝ったというイメージ)であるター。超名門オーケストラでの指揮、自著の発行、自分を取り巻くすべての権限を持つ姿は、今話題のあの芸人の姿と重なって見える。

彼が昭和から築き上げてきた、誰の目にも明らかな実績は確固たるものであり、多くの人が影響を受け、尊敬の対象としてきた。ターも同様に、彼/彼女による努力と才能で賞賛され、その眼差しは彼女自身の生き方、考え方にも向けられる。1人の人間が成し遂げたことである以上、その才能と人格の評価が切り離されて捉えられることはおよそない。

そんな中、彼/彼女の人格の歪みが成した行為が大きくフォーカスされる出来事が起きる。被害者を自殺に追い込むほどのショックを与えた彼女の行為を、彼/彼女自身が大きく捉えている様子はない。むしろ、人を選別し、人の人生を左右することは彼/彼女の役割として日常的に求められている行為である。仕事の中で行うその行為に麻痺した彼らは、私的空間でもそれらの権力を振りかざし、自分の行動の重大さをいちいち省みることはない。仕事に全力で生きれば生きるほど、仕事と自分自身は一体となり、境界線を引くことは難しい。

ターは、ある日突然告発という形で極めて客観的に自分の行為をジャッジされる。「才能」の要素をとっぱらって並べられた事実は、到底世間が受け入れられるものではなく、ターは辞職へ追い込まれる。最初に告発を受けた段階では、気にすることなく作曲に打ち込む姿がみられるが、現実的に降板され、自分の才能領域にも影響が出ることが分かった途端、彼女は精神を病む。第三者の目からは「才能」「人格」は分けて考えられて当然であるが、当の本人の中ではこの両者が密接に繋がっており、人格の否定は才能の否定、ひいては自分の存在の否定につながるのだろう。次々と病的な行動に出る彼女だが、その苦しみは彼女がこれまで傷つけてきた人々の苦しみを考えれば、比較にもならないものだろう。

ケイト・ブランシェット、しなやかに引き締まった身体でアスリートみたいだった