T太郎

彼女のいない部屋のT太郎のレビュー・感想・評価

彼女のいない部屋(2021年製作の映画)
3.9
1046
フランス映画だ。

二度観必至のややこし系、なるほど系ミステリーである。
映画的叙述トリックを用いた極上のミステリーなのだ。

ひと通り鑑賞した後に再度最初から観返すと、ガラリと世界が反転するような感覚に陥る。
と同時に、無駄なシーンは一切なかったのだと気づかされる。
そんな映画である。
一体どういう事なのか。

説明しよう。

まず、私の初見のストーリー紹介をする。

主人公のクラリスは夫と二人の子供たちを残して家を出る。
理由は分からない。
書き置きも残さない。
自由を求めて、のように見える。

残された家族は困惑しながらも、普段どおりの生活を続けようとする。
積極的にクラリスを捜そうという姿勢を見せない。

しかし、夫のマルクは怒りに任せてクラリスの私物を処分し、子供たちはそんなマルクに反発するのだ。

だが、彼らは次第にクラリスのいない生活にも慣れ、父子3人で睦まじい生活を送っていく。
平和的で微笑ましい場面も描かれる。

一方、クラリスは残してきた家族が恋しくて仕方がない。
とりとめもなく、散文的にその様子が語られていく。
おまけに彼女の妄想と思しき場面もちょいちょい出てくるのだ。

だったら帰ればいいぢゃないか。
なぜ帰らない。
そして、何を嘆いているのだ。
勝手に家族を捨てておいて、そんな資格が君にあるのか。

概ね、こんな感じだ。
クラリスの情緒が不安定過ぎる。
無責任な母親のへんてこりんな物語なのである。

     以下ほんのりネタバレ
  ほんのりと言えど、かなり踏み込
  んでいます。
  ネタバレ厳禁の作品なので、覚悟
  と責任をもって読んでください。
  後でヤイヤイ言われても、僕は知
  りません。
  ヤイヤイ言われたら、ただメソメ
  ソ泣くだけなのです。

以上が、額面どおりに受け取った場合のストーリーだ。

しかし、その中でも明らさまな伏線というか、もはやネタバレ?という場面がある。

鋭敏かつ賢明な頭脳をお持ちであられる極少数の・・ほんの一握りの・・選ばれし方であれば、そこでいち早く事の真相に気づくであろう。
もちろん、私もその一人だ。

だが、それはあくまで選ばれし者の話でおる。
普通の人は気になりながらも、なんとなく諸々をスルーしてしまうのだ。
どうしても、クラリスの動向を追ってしまうからである。

そして、初見のストーリーがインパクトがあるだけに、そちらに感情が引っ張られてしまうのだ。

つまり、1回目で全容を理解する事が非常に難しい作品なのだ。
当然、一般庶民の方々は2回3回と観る必要があるだろう。
そこはあらかじめご了承いただきたい。

ちなみに、鋭敏かつ賢明かつ素敵な私は都合4回鑑賞したのであった。
で、まだ理解できていない部分があるのであった。

なんとなくクリストファー・ノーランの「メメント」を想起する作品だ。
ポイントは時系列なのだ。

あまり意味がなさそうに見えたシーンが、実は重要な示唆に富む場面だった、なんて事がごろごろ転がっているのだ。

冒頭のクラリスが家を出るシーンが、物語全体の中のどの時点での事なのか。
ここを考えながら鑑賞すると、違った味わいがあるかもしれない。

クラリスの妄想らしき場面も多々あるので、色々幻惑させられる。
ややこしくて静かだが、実に楽しい作品でもあるのだ。
T太郎

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