幽斎

N号棟の幽斎のレビュー・感想・評価

N号棟(2021年製作の映画)
1.0
毎年恒例の年一の邦画レビュー、今回俎板の鯉に為るのは此方の作品。普段は邦画を全く見ないので純粋に作品を評価。AmazonPrimeVideoで鑑賞。※今ならプライム会員は0円って何でやねん!(笑)。

映画館で「実話を基にした考察型体験ホラー!」予告編を見せられ、スリラー専門の私が黙ってる訳にはイカない(笑)。監督と脚本は「世にも奇妙な物語」作者らしいが、随分大きく出たなとアクビも出ないが、学生の頃から推理小説を嗜み、短編が出版社から賞を貰いテレビドラマ化された実績の在る私のクリアランスを果たして超えるのか?。

中日新聞の記事から引用、夜中に誰も居ない部屋から音が聞こえる、ドアが勝手に開閉を繰り返す等の不可思議な現象を証言する富加町の団地の声を「ニュースステーション」扱った事で警察や自称霊能者まで押し寄せパニックに「建付けの問題」欠陥住宅と言う結論で2年後に終息。2021年時点で当時の住人は殆ど残っておらず、自治会長も既に没してる。ポルターガイストの多くは目撃に依存、此の事件もミステリーの定番「後付けバイアス」。建付けの問題もアメリカの例だと「ウォーターハンマー現象」。行政的に問題が無い案件を監督が勝手に新解釈として映像化?、う~ん(笑)。

【ネタバレ】まあ、未見の方もそのままご覧頂いて問題ないと思うよ(笑)【閲覧注意!】

皆さんご指摘の通りレビュー済で私が5.0評価したカルト的フェスティヴァル・スリラーの傑作「ミッドサマー」の日本公開が2020年2月、本作の公開が2022年4月、余りに安易過ぎんかね?。後藤庸介と言う人が国内でどれだけ実績のある方が存じ上げないが「Hommage」の意味を勝手に歪曲化。A24は訴えたら本気で勝てるんじゃないかレベル。ハリウッドは元ネタを誠意を持ってリスペクト、其の上でヤッテ良い事とイケない事の分別を付けるから問題に為らない。

フォーク・ホラーなのに本気のセックスが無い!(笑)、日本の団地とスウェーデンの夏至祭とは全く別モノと言い切るだろうが、オマージュで避けなければイケない事は露骨に連想できるシーンを入れない事。直接的な描写は避け引用に留めるのがクリエーターのプライドだが、同じシーンを入れてパクリの言い訳にしてる風に見えた。邦画お得意の製作委員会方式で製作費非公開。ミッドサマーの製作費は900万$ 。同じ様に見えるから製作費の差は露骨に映る。地デジなのに砂嵐とか一体何時の話なのか?。

ミッドサマーは従来のオカルトを180度転換して大自然で真昼間の明るいシーンでソレをやり遂げた事で観客にも伝わり、過去の作品とは一線を画す点が秀逸。団地の中庭でランチとかダンスとか住民がトリップとか、全てミッドサマー風。ソレだけでは不味い思ったか「Death Anxiety」死恐怖症。本作ではギリシャ神話を引用してタナトフォビアと言うが、アメリカでは此のプロットで映画を作る事は無い、彼らにはキリスト教が有る。日本人の死生観と死恐怖症は本来繋がるモノでも無く、俳優の演技不足を補う為に取て付けたように見えた。精神経学的には本作で描かれるシーンは出鱈目。死恐怖症の方が怪しい団地に行く事自体が不自然。団地のヴィジュアルも「呪怨」を見習うべき。

終末期の母親と言う邦画お得意のプロット、死ぬ事で自分が無に為る事を恐れる、それが救いと言う心理はキャラクターの二面性を表す効果も有るが、矛盾するプロットを補足する為に性格がエキセントリックと開き直る時点で「ジキル博士とハイド氏」かよ、一人ツッコミを入れた(笑)。死恐怖症と刹那的な性格とは、どう考えても水と油。邦画に無知なので配給SDP?、何処やねんと思ったら大手芸能事務所スターダストプロモーション。映画制作会社では無く芸能事務所総出で、ネタに困り古い事件を面白可笑しく描こうとする時点で道を誤ってる。此の脚本なら日本三大メジャー、東映、松竹、東宝なら不採用。監督のプロットの盛り過ぎも原因で、先読みが次々と当たるので全く怖くない。

褒める点がもし有るとしたら、安楽死か尊厳死かの是非を問う点だろうが、本作は自ら「考察型」と謳うが、何をドウ考察するのか素人の私には皆目見当付かない。一連の怪現象が本当に心霊なのか?、それとも住民の仕業なのか?、とでも言うのだろうか?(ほん呪風(笑)。死恐怖症はカモフラージュで「Necrophobia」死体恐怖症を否定するなら死体はハッキリと見せるべき。役立たずの元カレの存在理由も解らない。

ミステリーは読者に多様な選択種を与え、受け身から自発的な思考へ促すのが一流作家。心霊かフェイクかをミステリーで言うManeuver、虚々実々の駆け引きが上手くハマると鮮やかなカタルシスを味わえる。だが、本作では二者択一をアッサリ放棄して心霊現象と大見得を切る。死恐怖症も死後の世界を認めてしまえば、観客も「あっ、そうなの」考察のレールから早々に離脱。脚本と演出に一貫性が無いので、キャストに感情移入し難い障壁を制作側自ら造ってる。団地住民の集団ヒステリーもシュール過ぎて意味不明。

一応考察するが①本当の住民で廃墟と言う設定が偽り。②廃墟に違法に住んでる人達。③本物の心霊で住民は居ない。三択の筈だが、最後まで釈然としないまま終わりを迎えるから観客は腹を立てる、ミッドサマーは「ホントかも」観客に信じさせるが、結末の余韻は観客に委ねる。私もレビューでA4で4ページに渡って考察(笑)。だが、本作は広げた風呂敷を畳めないまま終わらせた。秀逸なスリラーとは散りばめられた伏線が最後に一点に収斂される、観客も最後に「ソウ言う事か!」膝を打つ。私の師匠Alfred Hitchcock監督の作品は、だから世代を超えて愛される。もっと横溝正史を読んで勉強して欲しい。

太秦映画村が有る京都人の私も洋画ファンだから邦画を扱き下ろせばイイってモンじゃ無い事は承知してる。だが、世界で唯一勝負出来るホラーで此の程度とは、邦画は日の出は疎か丑三つ時に逆戻り。私が監督なら洋画の某有名作品みたいに「実はもう死んでました」する。本作が2022年邦画クソオブザイヤーと思ったが、邦画に詳しい友人に依れば優勝は「大怪獣のあとしまつ」。準優勝は「それがいる森」。今年の大本命は「レジェンド&バタフライ」だと思うが、果たして?(笑)。

日本映画フォーク・ホラーの「成れの果て」(笑)、私はミッドサマーにも失礼だと思う。
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