幽斎

デュアルの幽斎のレビュー・感想・評価

デュアル(2022年製作の映画)
3.8
レビュー済「ガンパウダー・ミルクシェイク」遂にタイトルロールに成長したKaren Gillanが、自らのクローンと生き残りを掛けて対峙するヒロインを演じたディファレントなSFスリラー。アップリンク京都で鑑賞。

原題「Dual」本来の意味は「二元的」異なる2つの原理で様々なモノを説明する物理学に基づく考え方。砕いて言えば一対として併存。2重と言う意味のDoubleと混同し易いが、実はアメリカ人にデュアルと言っても通じない。正しくは[ˈdjuːəl] デューアル。意味が分るアメリカでは「タイトル詐欺かよ」「〇〇しないのかよ」「実はコメディかよ」かよ三連発で散々な云われ様。

ソレに輪を掛けて酷いのがアルバトロスのジャケ写。何だよ「カレン・ギラン×カレン・ギラン」って、完全に煽ってんじゃん。US版は武器を机に並べ、髪型の違うGillanが上下デュアルに描かれた。Riley Stearns監督はLance Reddick出演(謹んで御冥福をお祈りします、好きな俳優がまた一人逝った)「フォールツ」インディペンデント映画祭で高評価されたが「The Art of Self-Defense」恐怖のセンセイ、コレも邦題が酷いが、本来はブラック・コメディが得意。本作も淡々としたブラックなテイストがしっかり擦り込まれる。斧とボウガンとか完全にオレオレ詐欺、誰か本気で通報して欲しい(笑)。

話が飛びますけど、2000年製作「大脳分裂」ジャケ写がアッカンベーしてるグロゴアなホラー映画に誰が見ても見えるんですが、中身はシュールなオナニー系アート映画を思い出した。テイスト的にはYorgos Lanthimos監督らしさは本作に感じるも、予告編とジャケ写に吊られた方は、家路に着いた後で低評価の連打を喰らわす姿が目に浮かぶ。真顔のコメディを訴求しても誰も振り向いてくれないのは道理だが、昔のアルバトロスを知る方なら騙された感を味わえる余裕をカマしたい。

プロットは寧ろ秀逸な部類、Gillanは感情が能面みたく、周りも良く分らない。恋人は居るけど仕事が忙しくて会う事が出来ず、動画でオナニー(此処で大脳分裂を思い出す(笑)。母親は居るが父親を亡くした悲しみから、寂しさを紛らす典型的なカマってちゃん。彼女は致死率99%の不治の病に侵される。此処でReplacement、継承者と言う意味だが、オリジナルの唾液で製造、無垢なクローンに情報を伝える事で、恋人や親に寂しい思いをさせない。死後の身代わりとして生活を送って貰うコンセプト。

オリジナルの気質を引き継ぐだけでなく、クローンにも個体差が微妙に広がる展開はSFらしくて悪くない。問題は親も彼氏もクローンに御執心と言うクズ展開。オリジナルとクローンの立場が逆転するのは定番だが、自分はどうせ死ぬ身で苦々しく思うけど仕方ないと諦め、再度診察に行くと何と!不治の病は完治してた。色んなスリラーを見たけど、純朴な方でも此処でコメディだと解る。

オリジナルとクローンが共存する事は法律で禁じる為、何方かターミネートする必要に迫られる。クローンが諸般の事情でイザと為れば不要になるケースは有りえる。其処で用意されるのが決闘番組。「ウエストワールド」(ドラマじゃ無い方)Yul Brynner主演の傑作SFスリラーを思い出すが、戦闘技術を身に着ける猶予まで与えられる。随分と悠長な法律だが案の定、決闘が近づくとオリジナルとクローンは心を通わせ、番組をドタキャンして国外への逃亡を試みる、ホラ見ろ(笑)。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

カレン・ギラン×カレン・ギランが決闘は居ろか全く戦わない、過去に類を見ない卓袱台返し!。不治の病が瞬時に直る、決闘もしない二段オチはAgatha Christieも裸足で逃げる反則行為。スリラー的には生き残った方がオリジナルと言う考え方も有るが、車で事故って決闘会場に現れた。クローンは運転出来ないので、ラストシーンを見てもオリジナルが埋められたと考えて良い。クローンと共存する法律が無いのは、強引に決闘させたいだけ。所詮はブラック・コメディよ(笑)。

オリジナルは生活に疲れたと言うても死にたくは無かろう。クローンも別人格が宿るから、クズ男で無い彼氏を探したい。つまり、オリジナルもクローンも生き続ける事はシンドくても、死ぬより生きるをお互いが選択した訳で、結局どちらが残っても生きるのは辛い、そりゃ涙も流すよとブラック・コメディとして完結してる。面白いのは戦闘術を教えるAaron Paul。講釈は凄いんだけど見た目が全く強く見えない。筋肉隆々とは正反対の貧素振りで、オーラも微塵も感じない。

Gillanがレッスン料が無いと言うと「大丈夫だ、他にも方法は有る」ナイスなアドバイス。そりぁ、誰もがエロい展開を期待するが、セックスを要求するんじゃ無くて、ダンスを教えて欲しいって誰得なんよ(笑)。しかし、プロット的には人間は大事にされない。誰でも誰かの代わりが出来る、個人の尊厳何てどうでも良い的なディストピアは意外と秀逸。今はChatGPTさえ有れば人は要らない、批評性も感じられた。色んな意味で予想の斜め上が味わえる。エンドロールだけは何かセンス良かった。

面白い展開を用意して女をソコに上げない。釣った魚に餌をヤラない異色のスリラー。
幽斎

幽斎