タキ

さかなのこのタキのレビュー・感想・評価

さかなのこ(2022年製作の映画)
4.0
まじりっけなしの純度100%の「好き」はこんなにも人を幸せにするのかとさかなクンを見るたびに思う。さかなクンもとても幸せそうだし、見てるこちらも幸せな気分になる。そんなさかなクンの自伝を元に作られた「さかなのこ」はテレビで見るさかなクンのままにしあわせと世界を信頼する優しさに満ちている。ミー坊の周りは素敵なひとがいっぱいだ。本当はおさかなが苦手なのにミー坊の願いをずっと叶え続けてくれたお母さん、乱暴で言葉もガサツだけどミー坊の「お魚博士になりたい」を否定しないヒヨ、仕事が続かないミー坊にピッタリの仕事を紹介してくれたモモ、ミー坊新聞を楽しみにして褒めてくれる小学校の先生、カブトガニの飼育を任せてくれてあたたかく見守ってくれる高校の先生、ヤンキー連中もミー坊に毒気を抜かれてなんだか可愛らしいギョともだちになってしまった。なんとさかなクン本人もとても重要な役で出演している。下校中の小学生に魚好きそうな子がいれば声をかける通称ギョギョおじさん。ハコフグの帽子を被っていてまんまさかなクンの風貌だ。ギョギョおじさんに遭遇すると捕まってお魚に改造されちゃうから親指を隠して帽子を褒めて逃げろと口裂け女みたいに小学生の間では言われているらしい。ミー坊のお父さんからは不審者かもしれないから家に行っちゃダメとも言われている。それでもミー坊はギョギョおじさんのところに行ってたくさんの水槽の魚たちを見てふたりで絵を描いて楽しい時を過ごす。ミー坊が夜9時すぎても帰ってこないのでミー坊のお父さんから警察に通報されてギョギョおじさんは任意同行という形で警察署に連れていかれることになる。大人が小学生に声をかけ家に連れ込む、これだけ聞けば立派な変質者だから仕方ない。変質者は言い過ぎかもしれないが何者にもなれなかった魚が大好きなだけの大人、「魚が好き」の一念だけでほかのことはなにもせず、それで生活できるような仕事に結びつくかといえば、そんな道は開けないかもしれない。ギョギョおじさんはもうひとりのさかなクンの姿だったのかもしれない。優しいばかりの物語かと思ったらこれは結構シビアな現実だ。だからこそヒヨにテレビに出てみないかと誘われたときにあのお別れの日にギョギョおじさんがくれたハコフグの帽子を手に取ったミー坊を見てちょっと泣きそうになった。報われないと思って人生を送っている人へ、ひとりじゃないよ、きっとあなたの「大好き」は誰かに届いてるよと言ってくれてるみたいだった。
いつだったか、のんは憑依型の俳優だと書いたけれど今回も見事なハマり具合だった。のんの姿を借りればさかなクンはこうだったろうなという気がする。子役さんもすごくよかった。すわイジメか!と身構えたエロスコールをニコニコ笑って手拍子しながらエッロッスッ!の天真爛漫な笑顔にはヤラれた。タコさんを迷わず絞めるお父さんと飼おうと思ってたタコさんの絶命にショックを受けるミー坊には気の毒なんだけど爆笑した。竹串にさして炙ったタコさんの足を齧るシーン、何かの番組でかわいい魚を釣って料理するのは平気なんですか?と聞かれたさかなクンが釣った瞬間に美味しそうって答えていて、タコさんエピソードがこの発想の始まりだったらすごくいいなと思った。


さかなクン×鈴木拓、同級生の2人が語る豊かな生き方 毎日の小さな幸せから見つける「好き」を大切に https://mdpr.jp/cinema/detail/3319634
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