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線は、僕を描くのamuのネタバレレビュー・内容・結末

線は、僕を描く(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

原作小説のファンで、水墨画家でもある原作者・砥上先生直筆の水墨画とサインが入った単行本は私の宝物でもある。当初は「黒白の花蕾」というタイトルだったものを担当編集者さんの案で「線は、僕を描く」に改題されたそうなのだけど、完全に改題されたタイトルの方がぐっとくる。


原作への思い入れが強いあまりその後漫画化されたもの、また実写化された本作からはずっと目を背けてしまっていたけれど、最近になって本作の主人公を演じているのが今私が絶対的な信頼をおいている横浜流星だと知り、彼の演技力、表現力を持ってしてなら観てみたいと思え、今に至る。


冒頭の表情のシーンからすでに心が震えた。とはいえ、この冒頭部分から細部に渡って原作とは大いに違っていた。でも言いたいのは、別物とした上で、本作もとてもよかったと思う。ただ一部どうにも残念に思った部分があって、それさえなければ映画も満点を付けるつもりだった。


なので、
まずはよかった(好きだった)点。
・映像化されたことで美しい「水墨画」が可視化されたこと。描くシーンも素晴らしかった。
・キャスティング。主人公の青山くん(横浜流星)はもちろん、主要キャストである千瑛(清原果耶)と湖山先生(三浦友和)が何より良かった。湖山先生は原作での80歳くらいの小さい老人という描写から私が持ったイメージは小日向文夫さんで、近寄りがたくキツい顔と態度の千瑛は柴咲コウさん(年齢設定がだいぶ上がっちゃうけど)でしたが、めちゃくちゃいい感じにそのイメージを裏切ってくれてありがたかった。清原果耶ちゃんの演技は今作でもとても良かったし(大好き)、これはスタイリストさんのセンスだけど服装がどれも素敵で似合っていた。


キャスティングについて補足すると、藤堂翠山先生は原作では男性だが、富田靖子さんのキリリとした感じも悪くはなかった。すでに筆を折ってる設定や、青山くんとのエピソードごっそりカットされちゃったのは残念だけど。またイメージとは少し違ったけれど西濱湖峰を演じた江口洋介さんもとても良かった。それと大好きな河合優実ちゃんも友人役ながら安定の演技力でした(大好き)。細田佳央太との演技力の差がエグかった。


残念だった点
・湖山先生が青山くんを弟子に誘った動機と理由。出会い時のやり取りが伏線になる大切かつ胸を打つエピソードなのに、改変されめちゃくちゃ激弱エピソードになっちゃってた。作品全体の意味とテーマ、展開にも深く関係するというかここが全てなのに。
・挿入歌とエンドロールの歌。水墨画を描く際の劇伴はめちゃくちゃ良かったのに急にどしたの?という思い。(特にエンドロール暗転後の突如青春スポ根ムービー終わり感が哀しいほど残念だった。「ピンポン」のエンドロールを見習って欲しい。)
・夙川アトムのうざすぎる演技(浮いてた)
・細田佳央太の演技(キャクター設定というか)


残念点の中でも特筆して残念だったのはエンドロールの歌で、暗転前の主要キャストの水墨画と墨文字で魅せる映像は素晴らしかったし、じんわりと余韻を噛み締めはじめたその時急にワーと入ってきた歌が本当にノイズでしか無かったの、だいぶ残念すぎました。


映画ではカットされてしまった主要人物が登場したり、家族を失うエピソードも全く異なるし、何よりも先生と青山くんの深みのある言葉のやり取りが素敵なので、原作未読の方でこの映画がとても好きだった方にはぜひとも小説をおすすめします。私も久しぶりに読み返しているところです。文章で見る水墨画も素敵なのです。
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