あかっか

トリとロキタのあかっかのレビュー・感想・評価

トリとロキタ(2022年製作の映画)
4.5
2023_085❼

この衝撃的なやるせなさに

我々は無防備でいなければならない


不意に打ち込まれた右ストレートをモロに喰らってしまった。それまでのジャブで警戒していたにも関わらずだ。しばらく呼吸すら忘れ、無音のスタッフロールをぼやけた視界で見届けた。

ビザが取得できず真っ当な職に就けないが母に送金するためにドラッグのプッシャーとして働くロキタ。そのロキタを姉の様に慕うトリ。貧困に喘ぐ子供たちの出口のない脱出劇。

以下、ネタバレ含みます。

まるでこの世界の希望のなさを全て悟ったかの様に光のない眼をするロキタ。あらゆる理不尽をお金の為と受け入れ、感情を一切出さない。唯一トリに関する事だけは感情を剥き出しにしパニック障害の発作を起こす。トリは貧困から抜け出そうと瞳に希望の炎を燃やし、ロキタを常に心配しながら、その名を叫ぶ。二人の絆は血の繋がりより遥かに強く濃い。

これは演技なのか?

時々演技を超えた何かを感じた。それくらいこの二人の演技はリアルだった。さらに主演の二人が演技未経験であることに驚かされる。

クライマックスは突然にやってくる。物語の行く末を案じながら、さてどういう結末になるのかと無防備になったその刹那。しかし、それこそが監督の狙いなのだろう。

トリとロキタの物語を無防備に受け入れることこそが本作のテーマを最大限に理解する為に必要なのだと思った。

この姉弟の行く末を、この圧倒的な悲劇をただの映画ではなく、起こり得る事実または現在進行形で起きている事実として受け入れる必要がある。

89分の作品中、楽しい時間はほんの数分。しかしだからこそその瞬間が愛おしく、またその時間が1秒でも長くなればと願う。楽しい事などまるで無かったと思われるロキタの人生、できれば一度彼女の心からの笑顔を見てみたい。そんな世界があって欲しい。

メンタル的に余裕がある方にのみオススメします。
あかっか

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