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ヴィーガンズ・ハムの都部のレビュー・感想・評価

ヴィーガンズ・ハム(2021年製作の映画)
3.4
菜食主義者の肉が美味い!! 社会風刺を孕んだカジュアルなカニバリズム映画として充分な痛快さがあり、記号化された配置に露悪を感じるものの、リズミカルな編集と根源的食物連鎖を軸とした堂々たる語り口は風通しがよく、倫理的な抵抗感はありません。是非ともご賞味を

粗筋:経営不振と夫婦仲に悩まされる肉屋を営む夫婦が、過激派ヴィーガンをうっかり殺害してしまい、それを誤って食肉として売ってしまい、そして思いがけない好評を得て、人気店に成り上がるのだが……。

この筋書きには現代において変わり者とされるが故に槍玉に挙げられる特定の属性を恣意的に滑稽に描く意図があるのは事実で、良心の呵責という点で一定の顰蹙を買うものの、物語を大局的に見ればこの映画における真の業は人間の見境のない傲慢さにあることが見て取れます。

リズミカルに進行する夫妻による愉快な殺戮シークエンスには、自然界の食物連鎖の様相がモンタージュとして用いられ、あくまで彼等が行っていることはその枠組みの内の所業という示唆は絵面も相俟ってユニークです。

加えて よく分からない物を”美味しいから”という理由で食べ漁る人間の根源的な無知への警鐘も経由しており、風刺映画として最低限の鋭利さを帯びていて、これは単に露悪的な映画ではないと割り切れるだけの至誠な作りだと言える。

本作の特筆すべき点の一つとして、
美食殺人鬼とも言うべき妻のキャラクタ性は思い切りがよい。同情の余地のない表面的なサイコパスとして役割を演じ切っているものの、用意された中年夫婦の寂れたロマンスも含めて厚みのあるキャラクタとは決して言えませんが、その点に自覚的な90分弱というランタイムの中では充分すぎる。優柔不断な旦那の態度には、物語の進行を妨げる/言い訳のようにわざとらしく倫理的一線の反復を行うという二つの意味から苛苛させられますが、それもまたコメディとして収束させられる域に留まっているため大きな失点はありません。

またこれは食事と調理を取り扱う物語なので、
R15相当のグロテスク表現の数々は必要不可欠だと思わせる作りなのも芳しく、それが物語の中で人が人をあっさり殺めてしまう後暗い爽快さと結び付いているのも好印象でした。

不満らしい不満の少ないB級映画の良作ですが、
しかしここまで割り切った作りならば物語の結末はかようにお行儀よく収束させなくても良いという気持ちが勝るのも事実です。
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