都部

男はつらいよ 奮闘篇の都部のレビュー・感想・評価

男はつらいよ 奮闘篇(1971年製作の映画)
3.4
知人の絶賛を受けて大きな期待を宿して鑑賞してみましたが、実際これまでの作品群の中でもかなり印象的な一作で、それになにより先天的な障がい者と共にどう生きてどう向き合うべきかという命題をしっかりと突き詰めて解答を出す、重みのある良い作品だった。

時に世の中にはパターナリズムという言葉がある。

この言葉は父親と幼い童の関係のように相手を保護する力を持つ者と無力で保護を必要としている者との間に生まれる関係を指している。ここで問題として挙がるのは保護する者が保護される者の利益になるようにと、本人の意思や人生の指向性を時に無視して筋道を立てるという対等な人間同士では有り得ない歪さ──本作における寅とマドンナ:花子の関係はまさしくこの例に漏れないそれなのだ。

寅の人情が幸いして彼女を助けた始まりから、自分の庇護下に彼女を置いて『それがこの娘の幸せだ』と納得し、そこに在する下心を毎度のように晒していくが、この過程の数々があまりにも自覚的にグロテスクに描写されているのがすごく良かった。

寅の人情の本質が気まぐれな自己満足であるのが災いして、加速度的に二人の関係が綺麗なまま歪んでいくのが凄まじいし、周囲の大人の冷静な視点──それもまた人情なのである──を寅は非難するが、誰よりも彼女を”人間”扱いしていないのは寅その人で……。

花子の先生の登場と彼の口から語られる花子の在るべき生き方が、正しく半可な恋路を打ち砕く構図は、これまでの失恋とは形も重みの異なる記憶に焼き付く幕切れだったのは言うまでもない。

花子の帰郷を耳にした寅の言葉もキツすぎるんですよね。
どういう目で花子を見ていたかが言葉の端に漏れてるし、それに対してスパッと断ずるさくらの言葉もあまりにも現実の重みで最高。
都部

都部