ぷかしりまる

西部戦線異状なしのぷかしりまるのネタバレレビュー・内容・結末

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

今作の立ち位置
1930年版は原作を改変し「戦争なんてよくない!」と主人公たちが説教垂れるシーンがある。確かに大事なことだが、白々しい演出だ。というのも原作では、あからさまなアジテーションはないものの、兵士の無力感を描くことで読者の反戦感情を高めるためだ。
それに比べ今作は原作の要素をうまく取り入れている。例えばカチンスキーがガチョウの肉を盗み食べる場面や、フランスの女の子たちを口説く場面は、兵士たちの生きる喜びが伝わる。それによって戦場の多面性(単なる殺戮の場でないこと)が描き出されている。
そして原作との大きな差異として、休戦協定を結ぶシーンの挿入、それによるラストの改変、カチンスキーの死因が挙げられる。

今作のオリジナリティ
休戦協定を結ぶシーンは本編より面白い。戦争映画としていかがなものかと思う。というのも休戦協定を結ぶか否かでフランスとドイツの参謀が睨みあい悩む場面と比べて、本編の緊張感が足りないのだ。原因は何も起こらない一点透視のカットが多すぎるためだろう。それは主人公の顔だったり、美しい景色だったりする。一番ムカつくのは終盤におけるカチンスキーが綺麗な空を見上げているカットの多さ。同じカットを何回も何回も繰り返されるとウザい。
ラストの改変(休戦協定が結ばれたのに戦い続ける、兵士たちが無駄に死ぬ)は戦争における無駄死にが強調されていて良い。「名誉の為に戦って死ぬぞ!」と声高々に叫ばれ、パウルは泥に塗れて無様に無駄死にする。戦争における名誉の死なんてあるのだろうかと思わずにはいられなかった。
原作におけるカチンスキーの死因は、物資運搬中に脛を撃たれたことだったが、今作ではフランスの民間人の子供に銃殺されたことだった。民間人の子供が敵国の兵士を殺すことは、子供が大人になり、また殺戮を繰り返すことの暗示になっていたように思う。

良かった点
パウルが反射的に敵兵をシャベルで叩きのめす。すると彼は敵兵に命乞いをされ戸惑い、咄嗟にパウルの仲間が敵兵を撃ち殺す。この流れの敵兵の撮り方が素晴らしかった。一瞬だけ映る怯え切った表情、涙を湛え輝く緑色の瞳。
ティムオブライエン著「本当の戦争の話をしよう」における、森の中で地雷を踏んで死んだ瞬間に、木々の隙間からさすまばゆい光に照らされた少年の話を思い出す。
逃げ遅れたパウルが塹壕にて敵兵と一対一で戦い、瀕死の状態に追い込むが、ふと我に帰り激しく後悔する場面も良かった。殺戮が繰り返さる戦場にて、人道的な人間性を取り戻す為だ。

最悪な点
不協和音のメインテーマがうんちすぎる。こんなにサントラにムカついたのは初めてだ。ぷかしりまる最低サントラ部門でゴールデンラズベリー賞に輝くだろう

追記
サントラがアカデミー賞で受賞してた。でも不愉快なものは不愉快ですのでぷはぷの信念を貫きますわよ